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どのくらい時間が過ぎたんだろう?
心地よい疲れを感じてうとうとしていたのかもしれない。塾に行くため、リマインダーは毎日6時にセットしてある。たぶん、まだ鳴っていないはず。
栞は俺にくっつくようにして眠っていた。頬にかかった髪を直してみた。
⎯⎯本当に俺たち…?
夢でも見ているみたいな時間だった。
心地よくて、栞が素直に自分の気持ちを伝えてくれて。
指が耳に触れると、栞は微かに睫毛を震わせた。ちょっとした、いたずら心が芽生えてしまった。そっと指でなぞることを繰り返すと、栞は口許を手で隠した。
唇で触れると、栞は自分の人差し指を噛んで、声が漏れるのを堪えようとしているみたいだった。栞は寝てても我慢するんだ。
俺の前では、全部さらけ出せば良いのに。
見せてくれたら、嬉しいのに。
俺、本当に栞が好きなんだな。
親友で、戦友で、理解者で、メンターで、彼女で、あとなんだ?
栞は、全部の要素をもってるんじゃないだろうか?
だから、栞が良い。
栞しか、好きにならなくて必要十分。無理にそうしてる訳じゃなく、心が動かないんだ。異性としては、他の誰にも。
「これからも大事にする」
俺は、俺の腕の中で安心したように眠っている栞に口づけた。
眠れる森の美女に口付ける王子さまの気持ちが、初めて少しだけわかった気がした。
【第三部:完】
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