第四部 18 それぞれの選択

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第四部 18 それぞれの選択

 私達は3年生になっていた。いよいよ受験一色。  陽平は、アジアの文化の研究で有名な先生がいる、都内のとある大学に進む意志を明確にして、それに向けて努力している。  一方、私は進路を決めかねていた。もう、リミットは間近だと言うのに。  私立でもいいから、自宅から通える大学にという両親。  国公立に拘る私。  16歳差の弟は、本当にかわいらしかった。3人に溺愛されて、まもなく6か月を迎える。昔なら、私が母でもおかしくない年の差だ。母と私、弟の暁の3人で出かけると、すれ違う人に時々二度見される。不思議に思うんだろうな。あの子はどちらの子?って思われているのかも。  弟は暁と書いてそのまま“あかつき“と名付けられた。なかなか個性的な名前だ。父が名付けた。帝王切開を予定していたのに、手術予定日よりも早く破水してしまい、自然分娩になった。  病院の管理下でも、お産は分からないものなのかもしれない。長い微弱陣痛が続いたみたいだ。生まれたのは、破水から30時間経過した明け方だった。  私と父は、つきっきりで分娩台にいる母を励ました。何かあっても困るからと、補聴器を母は外していた。耳元で声を掛け続けた。通常、出産に立ち会えるのは一人だけらしいけれど、特別な配慮で私も入れて貰えた。  こんな風に、私も生まれ、いつか子を産むかもしれないと思うと、特別な感慨だった。  時々、ふざけて“暁”の2文字を取って「あかちゃーん」と呼んでみる。父が「止せ」なんて今は言うけど、そのうち大きくなったら本人が怒るようになるんだろうな。  その弟が、もし医学の道に進みたいと思うようになったら、私が私立に行くのはどうかと思うのだ。別に医学の道ではなくても、成人する頃には両親がもう還暦となると、蓄えは多い方が良いに決まってる。生活費を入れても、国立の方が費用が浮く。  都内の国立を受けようとは思ったけれど、なかなか難しく、万が一後期日程になったときのことを考えると状況は厳しい。それなら、学校見学にも行った関東近県の大学にしたいと考えていた。私としてはそれがベストだと思っていたのに、なかなかゴーサインが両親から出ない。  私立は国立と同等レベル1校、合格は堅いだろう大学1校を受けることにしていた。でも、本命が決められなかった。  違う。  私はもう決めているのに、親を説得できずにいる。私だって遠くに行きたいわけではない。弟の存在は、前以上に私を家族と結びつけていたから、離れるのは結構辛い。陽平とも離れてしまうことになる。  でも、やっぱり医師になりたい。  現役で合格して6年で卒業し、その先の道を考えたい。
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