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私は私で、ようやく両親に関東近県の医学部を受けることを認めて貰えた。ただし、チャンスはAOと前期のみ。後期まで持ち越さず、駄目だった場合、合格した都内の私立大学に進むという約束をした。
陽平は、ちょっと複雑な表情で私の話を聞いていた。
「やっぱり、栞は遠くに行くんだな」
「陽平だって、そのうち留学するでしょう?」
「そうだな。いつになったら、一緒にいられるようになるんだろう」
夢見がちなのか現実的なのか、よく分からないところが陽平にはある。
「でも、正直なところ入試は分からない。やっぱり難しいから確実ってことはないよね。当日のコンディションもあるから」
「安定してる栞が言うとなんだかな」
「国語はわからないよ」
「でも、悪くても8割5分とるようになったよな?」
「まだ足りない。国立と私立じゃ年間で300万以上違うんだよ?それが6年間なんて!生活費に年間300万はかからないでしょ?自炊の方がよほど経済的だよ。通学に時間を掛けるのももう嫌だし。実習が始まったら結構大変だと思うんだ」
「その考えの隙間に、ちょっとだけでも俺のことを思って欲しかったな。なんて思うのは、女々しい?」
何も言えなかった。考えないわけがなかったから。でも、ちょっとだけ躊躇いつつ、伝えてみた。
「私が一人暮らししたら、二人でいられる空間が出来るじゃない?」
「え?」
「ホントに考えたんだけど」
「そっか。それもありだな。近くにいることばっかり考えてたけど、茨城なら会いに行けないことはないもんな。近くにいて思うように会えないよりいいかも」
半分強がりなのも分かった。陽平は昔から、夢ほど遠くない目標だと言って私のことを応援してくれていた。
だから、私はどんなことがあっても諦めたくない。
今でも、私の原動力の一つに陽平の存在がある。
俯いていた陽平が、ふっと視線を上げて私の目を見て言った。
「今から…家に来ない?」
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