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「上も下もないよ」
「はあ?お前、多宝の人間じゃないな!」
「今は多宝に住んでるよ。多宝西小出身。でも、引っ越す前、保育園に行ってた頃は福富に住んでたんだ」
福富町の子達が拍手したけど、彼は何も反応しなかった。
「俺は、どちらにもそれぞれの良さがあると思うよ」
「良い子ぶって」
「つまんねー」
そんな囁きまで聞こえた。
栞は一線引いていたせいで、こんなときに話題を振られることもなかった。勉強もスポーツもひけをとらない。気も強いから、今のところいじめの対象にもなっていない。
でも、空気みたいな感じ。
そのくせ、みんな学級役員を押し付けてきた。
「やっぱり、栞さん、力あるじゃん?仕事早いし、公平だし」
そんなこと言っておいて、裏で文句言ってるのも知ってるから。
さあ、陽平とやらはどうするんだろう?
栞は、本に目をやりながら会話の流れに意識が囚われていた。
「中立的な立場で話すよ。」
そう前置きをして話し出した。
昔は多宝町は「田高町」だったこと。福富町は「田富町」だったこと。稲作で豊かになった町の隣には神山町があり、そこにあやかる形で明治期に今の名前になったこと。神山地区は今でも大きな町で、東西南北の小学校がある。神山市には、他にも幾つか町がある。
どこも優劣付けがたい素晴らしい町だと陽平は語った。
「どちらが良いかなんて、どっちも良いに決まってる」
「なんだ。“まじめ”かよ」
つまらなそうに言う人もいたが、大半は感心していた。
それで話は終わりかと思ったら、陽平はほんの少し強気な笑顔を浮かべた。
何を考えているんだろう?
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