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―――こんなにも断って嫌がってんのに、付いてくるとか普通有り得ないだろ!?
とはいえカメラを向けられているだけのため、警察に通報するのも気が引けた。
というのも、されていることからすれば普通に警察案件ではあるが、自身がミーチューバーであることは隠したいと思っているからだ。
あまり騒ぎを大きくしたくはないが、だからといって付いてこられるのも鬱陶しい。
「どうして付いてくるんですか?」
「あ、俺のことは気にせずデートを続けてください」
「カメラを回されて気にならないわけがないじゃないですか! カメラをしまって付き纏うのを止めてくれないと、警察へ行きますよ?」
「別にいいですよ?」
「ッ・・・」
警察へ行く気はなくても、名前を出せば引き下がるだろうと思っていた。 しかし、全く効果はないようだ。
―――くそッ、こっちこそ警察へ行きたくない理由があるってのに!
直接的に手を出してきたりすればそうも言っていられない。 ただ現在は自分だけでなく夕香里も一緒だ。
―――撒けるか・・・?
「走れ!」
夕香里の腕を強く掴み直し無理矢理逃げることにした。 幸い夕香里はヒールの高い靴を履いていない。 運動用ではないが走るくらいならできそうだ。
「あ! 待ってくださいよー!」
それでも青年は付いてこようとしたが、タイミングよく信号が赤に変わり逃げることに成功した。
「ようやく撒いたか」
「何だったんだろうね? あの人・・・」
「あぁ・・・。 付き纏われるとか気持ちが悪いな」
「竜希くんの知らない人なんだよね?」
「俺の知り合いでは見たことがない」
「そっか。 ・・・顔が見られないように庇ってくれてありがとう」
「いいって。 当然のことをしただけだから」
青年がいる方を見据え彼が持っていたカメラのことを思い出す。
―――投稿するためのカメラ撮影、ね・・・。
―――まさか俺のことを知っていたわけじゃないよな・・・?
「まぁ、もう追ってこないだろうし大丈夫だろ。 だけど念のためもう少しここから離れておくか」
「そうだね」
青年のことが気になったが、もうこれ以上関わりたくなかった。 しかし、再び歩き出そうとした瞬間だった。
「あのー」
「はい?」
「ドラキさんですよね?」
「・・・」
またその質問がきた。 態度を変えずにテンプレートとして使っている言葉を返す。
「ドラキって何ですか? よく分からないけど、俺はドラキっていう名前じゃないです。 ただの一般人です」
「サインください!」
「いや、だから俺はドラキさんではないからサインなんて持っていませんって」
「ドラキさんでなくてもいいから、サインをください!」
「はい? どうしてドラキさんでもない一般人にサインを求めるんですか?」
「サインがどうしてもほしいからです!」
「どう見ても俺たちは今デート中だということが分かりません!?」
「分かりません! 早くサインください!!」
色紙を強引に押し付けられる。
―――分かりませんって、何なんだこの人・・・。
竜希はどこかの事務所に入っているわけでもなく、グッズ販売もしたことがないため元々サインを持っていない。 だから実際に突然書けと言われても困るだけだった。
―――駄目だ、話が通じねぇ・・・。
―――もう俺がドラキだと確実に分かって言っているんだよな?
―――どうして声だけで俺だと確定できるんだ?
マイクを通しての声は本来の声とは少し違うように聞こえているはずだ。 ここまで断定された体で来られるのは初めてで、どうしようもできなくなる。
チラリと横を見ると夕香里は困ったように目を泳がせていた。
―――これ以上夕香里に迷惑をかけられない。
―――一刻も早く、この地獄から抜け出さないと・・・ッ!
「ごめん! また走るぞ!!」
今度は誰にも邪魔されないところまで走って逃げた。 だが逃げた後にこの選択を後悔することになる。
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