MeTuberしていただけなのに

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「マジ、かよ・・・」 ファンと思われるコメントの中に、明らかな愉快犯やアンチと思われるコメントも含まれていた。 先程のカメラを向けてきた男も含まれているのかもしれない。 『・・・これからどうするんだ?』 「どうするも何も、とにかく今日のデートはもう終わりにする」 『それがいいだろうな』  一度スマートフォンを遠ざけ夕香里に向き直った。 「夕香里。 今から夕香里を家まで送るよ」 「うん、分かった。 今日のデートは中止だね」 「・・・本当にごめん。 俺のせいで」 「ううん。 竜希くんの挨拶の後、すぐに配信画面を閉じちゃって最後までちゃんと確認しなかった私も悪いの・・・」 ―――本当にこんな大変なことになっている時でも、夕香里は優しいんだから。 竜希は着ている上着を夕香里に被せた。 「これで顔を隠しておいて」 多目的トイレから出る準備をしているとリュカの声がスマートフォンから聞こえた。 『今はどこにいるんだ?』 「多目的トイレに隠れてる」 『絶対に扉を開けたらリスナーがいるだろ』 「まぁ、そうだろうな・・・」 ここからが戦場だ。 かなり時間は経つが、こういった時のファンやアンチのエネルギーは凄まじいものがある。 もしかしたら一日閉じこもっていても、出てくるのを粘る人間がいるのかもしれない。 ―――正直無事に夕香里を送り届けられるのかも分からない。 ―――それでも俺は、命を懸けてでも守り切るから。 不安な声を聞いたからかリュカが言った。 『・・・俺、そっちへ行こうか?』 「え?」 『俺が住んでいるところは東京だし。 横浜にならすぐに行けるぞ』 「リュカは東京に住んでいたのか・・・! 意外と近かったんだな・・・。 って、そうじゃなくて!」 『ん?』 「いやいや、いい! 来なくていい!!」 『どうして?』 「俺のところへ来たらリュカも身バレする可能性があるんだぞ!?」 『そうかもしれないけど・・・』 ―――俺は知っている。 ―――俺とリュカは似ているから。 ―――彼女や身内に迷惑をかけたくなくて身バレ防止をしているんだ。 ―――ここで来てもらってリュカだとバレてしまえば、リュカのミーチューバー生活も終わってしまうのかもしれない。 ―――俺のせいで、それだけは嫌だ。 「じゃあ切る! 無事に逃げ切るから安心しろ!」 『・・・』 「またな!」 返事のないリュカとの電話を切った。 そして夕香里に向き直る。 正直、竜希だけではどうすることもできず夕香里にも逃げる心構えをしてもらわなければ成功しない。 「手を繋いで。 また走ってもらうことになるけどいいか?」 「うん」 「本当にごめんな」 「そんなに謝らないで。 竜希くんはこれからどうするの?」 それはミーチューバーについてのことだろう。 少し考え間を空けて答えた。 「・・・それはこの状況が落ち着いてから考えることにするよ。 今は夕香里の安全が最優先だ」 意を決して扉を開けた。 すると想像以上の人の数が竜希の登場を今か今かと待ちわびていた。 ―――てっきり集まっているのは多くても5人くらいだと思っていたのに・・・! 本来、ドラキが個人情報を出していればこんなことにはならなかった。 芸能人が街を歩いていたとしてもここまではならない。 偶然、ドラキのことを知ることができた一種の祭りのような状態だからこそ、ここまで酷いことになるのだ。 「ドラキだー! 喋ってー!!」 「本当に後ろにいるのが彼女さんなんですか!?」 あまりの迫力に負けそうになる。 だが自分を奮い立たせた。 「行くぞ!」 夕香里の腕を引っ張り強引に人ごみから逃げ出した 「ッ、こっちは駄目だ! あっちへ行こう!」 走る先には待ち伏せをしている人がいる。 それらを全て避けながら逃げること数分。 「嘘だろ・・・」 人通りが少ないところを選んでいたせいなのだろう。 どうやら行き止まりのところまで来てしまったのだ。 そこですぐに悟った。 ―――もしかして行き止まりの場所へと誘導されていたのか!? 振り返ると数人の人が立ちはだかっていた。 ―――・・・流石に追いかけられただけでは人に手を出せない。 ―――それにここで手を出したら、完全に俺はミーチューバーとして終わってしまう。 ―――でも、どうしたら・・・。 「いッ・・・!」 考えているうちに彼らは突進してきて、それをもろに受けた竜希は派手に倒れ意識を失った。 同時に夕香里の悲鳴も聞こえたような気がした。
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