MeTuberしていただけなのに

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竜希は意識を取り戻した時、先程いた場所とはまるで違う場所だったことに戦慄を覚えた。 明らかに一般人がやってくるような場所ではない。 ―――・・・ここは、どこだ・・・? 薄暗い部屋で無骨に打たれたコンクリートが肌寒く、どうやらそこそこの規模の倉庫のようである。 ―――あ、そうだ夕香里は!? やはり最初に気になったのは夕香里のことだ。 自分のことよりも夕香里が優先。 ただ周りをぐるりと見てみても夕香里の姿はない。 とりあえず動こうと思ったのだが、竜希の動きは冷たい金属によって遮られた。 ―――まさか・・・。 恐る恐る自分の両腕両足を見てみる。 全て鎖で繋がれており口元には違和感があった。 おそらくガムテープで塞がれているのだろう。 ―――拉致監禁された・・・? ―――こういう時はどうしたらいいんだ!? ―――叫んでまずは人を呼ぶ!? 「んー! んーッ!」 声は出せないが、唸り声くらいは出せる。 するとそれに気付いたのか奥から10名程の男女が現れた。 ―――コイツらが俺を拉致した犯人か。 ―――助けに来る人はいなくても、この人たちから事情を聞くことはできるのかもしれない。 「ドラキくんやっと起きたぁ! 急に殴ったりしちゃってごめんねぇ? 意識はちゃんとある?」 ―――コイツらも俺のファンなのか・・・? ―――本当のファンだったらここまではしないぞ。 ―――ただの何とも思わないリスナー? ―――そんなリスナーがここまでするのか? 一人の男が言う。 耳や鼻にピアスを開けていて、何となく恐怖を覚えた。 「半月前にさぁ。 MINちゃんとドラキはコラボしたよね?」 “MINちゃん”というのも竜希やリュカと同じミーチューバーである。 特徴的な声と本人の動きをトレースしたアニメーションキャラクターを使用していて、かなりの人気を集めている。 「その動画、超胸糞悪くてさぁ。 俺たちで低評価を押しまくったんだけど」 「・・・」 「もう俺たちのMINちゃんに関わらないでくれるー? たかが30万人の登録者で、もうじき100万人に到達するMIXちゃんとのコラボだなんて。 あまりにも釣り合いが取れていないんだけど」 コラボすることに特別な決まりはない。 お互いの同意があれば、誰と誰がやっても構わないもの。 ただこの時ばかりは確かに否定的なコメントが多かったのを憶えている。 ―――・・・俺にアンチが付いているということも知っている。 ―――寧ろアンチがいないミーチューバーなんてほとんど存在しない。 ―――そして一番アンチが現れるのはやっぱり誰かとコラボをする時だ。 ―――・・・確かに視聴者の意見も大事だけど、俺は自分のやりたいことをやり続けたい。 竜希はそう思っていた。 続けて一人の女が言う。 いわゆるゴスロリといわれる服装で、年齢はおそらく30歳間近だろう。 おそらくというのは化粧がかなり濃く、何となくでしか判断できないためだ。 「大丈夫だよ、ドラキくん。 私たちはドラキくんの味方だから」 ―――・・・味方? 「私たちはドラキくんのことを超愛しているから」 「・・・?」 二人の言葉は相反している。 ここにいる彼らの共通点がよく分からなかった。 女は横を向いて男に言う。 「さーて。 ここからは私たちの時間だから、男どもは出ていってくれる?」 「はぁ!? せめてコイツを殴らせてくれよ!」 「そんなことさせるわけがないでしょ! こんなに美しいドラキくんの身体を傷付けるだなんて許せない!! 一発殴ったことすら、本当は今すぐ殺してやりたい程に腹立っているんだから」 「話が違うだろ!? 俺たちがコイツを攫ったら、いくらでも罵っていいって言ったじゃないか!!」 「その時間は今ので終わったでしょう?」 「はぁ!? 今から女たちだけの時間だって? あまりにも不公平過ぎるだろ!!」 ―――一体何の話をしているんだ・・・? ―――俺のアンチと俺のファンが対立してんのか・・・? 抜け出したいしもっと話もしたいが、彼らはバチバチに言い合っていてそれどころではないらしい。 ―――放置された俺の身にもなってくれよ・・・。 手を出されないのはいいがこのままだと状況は変わらない。 二つの陣営の言い争いが終わらない中、竜希は倉庫の扉がゆっくりと開くのを確認した。
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