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サイレンは間違いなくここへ向かっていて、リュカがはったりで言っているわけでないことはすぐに伝わった。
「もう警察が来たのかッ!」
「そりゃあ、すぐに警察呼んだことを伝えると君たちは逃げ出すと思ったからな」
「時間稼ぎしやがって!」
彼らは慌ただしく駆け回っていた。 おそらくは最初から大した覚悟もなくこんな大それたことをしたのだ。 拉致監禁ともなれば罪は重い。
「この倉庫って裏口とかないよね!?」
「こんな場所初めて来たから分かんねぇよ!!」
もうここまで来たら既に遅かった。 警察が現れあっという間に彼らは捕まった。
―――人を拉致するということは、警察に捕まるって目に見えているだろうよ・・・。
リュカが自ら竜希をぐるぐるに縛っていたガムテープを外してくれる。
「大丈夫か?」
「あぁ、助けてくれてありがとう。 本当にお前はリュカなのか・・・?」
「そういうお前こそ本当にドラキか?」
互いの顔は分からない。 だがマイクを通してとは多少違うとはいえ声は間違いなく合っている。 それにこの状況で自分を助けてくれるのが、他にいるとは考えにくかった。
「どうしてここへ来たんだよ・・・。 身バレするから来るなって言ったのに」
「話は後だ。 ドラキの彼女さんは今どこにいる?」
「そうだ! 気が付いたら既にここにいて、彼女の姿はなくて」
「別々に拉致されたのか・・・」
「警察が既に匿っている可能性は?」
「横浜駅近くの交番へ寄ってみたけど、若い女性は今日来ていないって」
「そっか・・・」
二人同時に襲われたのだから、自分だけが捕らわれていると考えるのは楽観的過ぎる。 彼女も当然捕らわれてしまったのだ。
「警察には悪いけど少し抜け出そう」
助けてもらったが、今は彼女をすぐに探しにいきたかった。 警察に事情を伝えると捜すのに協力してくれるという。 とりあえず二人は先駆けで彼女の行方を捜した。
「彼女さんの居場所は分からないんだろ?」
「あぁ」
「探せば彼女さんの情報も出てきそうだけど・・・」
リュカはスマートフォンで調べ始める。
「・・・ツウィッターで調べてんのか?」
「あぁ。 一番早いからな」
自分もと思いスマートフォンを取り出す。 電源をつけてみるとたくさんの着信が入ってきていた。
「うわッ! 何だこれ!?」
リュカが覗き込んでくる。
「・・・酷いな。 さっきドラキが気絶している間に、電話番号とか個人情報を抜き取って流したんだろ」
「マジかよ・・・。 指紋認証はこういう時に弱いよな・・・。 でも連絡帳には鍵をかけておいてよかった」
「どのみちそのスマホは何されているのか分からない。 今日を乗り越えたら新しいものに替えた方がいい」
そう言われると踏んだり蹴ったりで溜め息しか出なかった。 買ったばかりということはないが、それなりに高価な代物なのだ。
「あ、見つけた! この人がドラキの彼女さんだよな?」
どうやら夕香里が拉致された瞬間の写真が投稿されていた。
「そう! 彼女だ!!」
「場所も記載されている。 今すぐに向かおう」
そして向かっている最中に気になったことを尋ねてみた。
「・・・あのさ」
「ん?」
「さっきの話だけど、どうしてここへ来たんだ? 俺はリュカも身バレするから止めておけって言ったのに」
そう言うとリュカはケロリと笑ってみせる。
「あぁ。 俺はいいんだよ」
「よくないだろ」
「いつかは顔出しをしようかなーって思っていたところなんだ。 それが今だったというわけさ」
「・・・嘘だ」
「・・・」
―――俺と同じであんなに身バレを防いでいたんだ。
―――だから自ら晒すわけがない。
―――ネットとリアルを繋げると絶対に生活しにくくなるって、二人で話していたんだから。
しばらく沈黙した後リュカは言った。
「・・・これでドラキとの関係を終わらせたくなかったんだよ。 このままだとドラキはもう、ミーチューブに戻ってこないかもしれないと思ったから」
「ッ・・・! 俺のために、俺と立場を合わせるためにわざと顔を晒したのか!?」
「・・・」
リュカは何も言わなかったが、間違いなくそうなのだ。 そう思うと胸が苦しくなった。
―――俺が身バレをして、俺一人に辛い思いをさせないために自分も犠牲になったのか。
リュカの思いが十分に伝わってきた。
―――・・・でも今は怒るのは違うよな。
―――かといって謝るのも違うと思う。
「・・・ありがとな」
礼を言うとリュカは小さく笑うのだ。
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