左手にはパペット

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 白い部屋、白いカーテン、白いベッドに白いシーツ。けれどわずかに黄色っぽくくすんでいる。私の白い髪の毛みたいに。  もうこの診療所もおばあちゃんだものね、と自嘲して皮肉な笑みを唇に浮かべる。  もうすぐお昼時だというのに、外は薄暗く、さあさあと静かに雨が降っている。窓を閉めているから雨音は聞こえないけれど、他の物音さえ聞こえない。いつもなら聞こえる、往来のざわめきも聞こえなかった。  こんな日に、古い診療所にやってくる患者さんはいない。私は白衣のポケットに手を突っ込んだ。指先に柔らかな感触を感じて、「それ」をつかみ出す。  使い込んでくたびれた、タレ耳ウサギのパペット。私の診療科は小児科だから、患者さんと言えば小さな子供だ。具合が悪くて機嫌が悪い子だって、このパペットを手にはめて、高く作った声音で「お口を開けて、僕に喉を見せておくれ!」なんて話しかけると、とたんにみんな涙を忘れて、素直に診察させてくれたものだった。  前回、このパペットを使ったのは、いつだったかな……。  私はパペットをそっとポケットに戻した。 a43d01c5-5dbc-41bd-ba0e-155ee34b27abイラスト:ハナ🍀様
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