左手にはパペット

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 近くに新しくて綺麗な病院が出来てから、診療所にやってくる患者さんはめっきり減ってしまった。  若いドクターは優しくて、戦隊ヒーローを演じている役者さんに似ているのだと、辞める間際の看護師が言っていたっけ。  小児科の患者さんは小さな子供。そして連れてくるのは若いお母さん。 「だから、仕方ないですよ」と。  私は首を振ると、電話の受話器を取り上げて、宅配のピザを頼んだ。シンプルなマルゲリータ。  薄いピザ生地にトマトソース、モッツァレラチーズにバジル。片手で持って、パクリと食べつつカルテを記入する。かつて忙しかった日には、昼食を文字通り片手間に済ませるのにピッタリの、自分への小さなご褒美だった。  今はもう、手で持ったら上に乗せた具材がこぼれてしまいそうなピザだって、ゆっくり食べられる。だけど……、なぜか昔の習慣が抜けないのは、やっぱり年なのかもしれない。  コンコン、と裏口のドアから音がした。  患者さんが来る自動ドアからピザの宅配が届いたら困るので、裏口のドアをノックするようにとお願いしてあるのだ。それにしても……、と私は壁の時計をチラリと見上げる。
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