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『もっしもーし、どーしたのー?』
母は案外早く出た。なーーんにも考えてなさそうな母の喋り方が無性に腹が立つ。
「ね、お迎えは? まだ?」
『ん? あー……お迎えねぇ……疲れた』
「は?」
反応に困る。
第一、母が発した『疲れた』が“お迎えに”『疲れた』なのか、咄嗟に口からこぼれた『疲れた』なのか分からない。よって、反応に困る。Q.E.D.
『お迎えに疲れた』
私が証明した一秒後に言われた。
それを言われちゃあおしまいです。
『だから、表くんに一緒に帰るようにお願いしといたよ』
……
?
「どういうこと?」
理解が追いつかない。意味が分からないから、これに関しては証明のしようがない。降参です。
『うちねえ、表くんちのお母さんと仲いいのよ。あと家も近いし、迎えに行くのも疲れたから、表くんと一緒に帰ればいいじゃんと思った。それで表くんのお母さんに言っといたんだけど、もしかして、表くんからそのこと聞いてない? まあ、よく分からないけど、これからは表くんと一緒に帰らせるから、よろしくねー』
「え、ちょ……」
電話を切られた。
あー、なるほどね。
目の前の、表くんの満面の笑みを見て、全部理解した。
「というわけで、愛理ちゃん、お迎えに来ました」
表くんがこの上ないほど楽しそうに言った。
いつも母が言っている言葉だ。
「そういうのいいから」
私はそう言って、そそくさと歩き出した。
悔しい。表くんは全部知っていた上で、私の反応を見て遊んでいたのか。
「ちょっと待ってよー、どうせ一人じゃ帰れないでしょ」
そう言って、表くんは走って私に追いついてきた。
二人の下校を祝福するかのように、あたたかい風が『ヒュー』とささやいた。
[完]
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