彼女の不安の理由

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 もちろん笑実の為だったら、できる限りのことはしたいと考えていた。  そこでまずはその夜、笑実の父親に連絡を取ってみることにした。最近、彼女と話をしたなら、そこから何かが分かるかもしれない。  笑実の父親である長年の友人は、初シングル曲のバンドに付いてくれたギタリストだった。ギターを一から教えてくれたのも彼だ。  音楽業界では伝説として称される「遠藤富泰(えんどうとみやす)」。だがステージを一歩降りると気のいいおっちゃんのような親しみやすさに、「トミーさん」と愛称で呼ぶ人も多い。 「もしもし?  トミーさん、久しぶり」 「おお、拓馬! 元気にしてるか?」 「まぁ、ボチボチってとこだね」 「アイツ、ちゃんとやれてるか?」 「笑実? 頑張ってるみたいだよ。連絡ないの?」 「あぁ、サッパリ。忙しいんだろうなぁ。世間様に少し名前が知れても、適当なことやってたらすぐに足元掬われちまう業界だから、親に連絡できないくらい真剣にやってるならそれでいい」  父親に連絡はしていなかった。  心配させては悪いから、肝心の要件は話さずに電話を切った。
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