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彼女の不安の理由
人の怒りは、鎖のように連鎖して行くもの。
誰かの良心や正義から始まった言葉が次第に誰かの怒りとなって、顔も名前も知らない他人に吐き出されることすらある現代社会。
その非難の矛先が、自分の愛する人へ向けられたとしたらどうだろう――。
「お疲れ様。笑実、調子どう?」
「拓馬!⋯⋯どうしたの?」
「ちょっと見学にね。この後、下の階のスタジオで音入れなんけど、ここに笑実も来てるって聞いたからさ」
「⋯⋯そう」
「なんだ、緊張してる? 顔が硬いぞ。えっと、次は4枚目のシングルだっけ」
「3枚目です」
「そうだった? あっ、そうそう、これ終わったら久々に焼肉でも行くか」
「行きません⋯⋯」
「うん?」
「緊張もしてないですし、焼肉も行きません」
妙なテンションの俺に対して、笑実は自分の心から俺を遠ざけるような、使い慣れない丁寧語で返事をした。
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