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「その時までにこのハンカチ、洗濯してお返ししますので」
「でもそれじゃあ……」
「大丈夫?」
「こいつなら、大丈夫です! ちゃんと来させますので」
井草に比べはるかに感情表現が豊かな柿村が後ろからひょっこりと顔を出し、そう気楽に請け負った。多分、井草にだけ任せてはおけないと思ったのだろう。
このままこの二人を眺めていたい気持ちもあるが、そろそろ美晴の昼休みは尽きかけていた。それにシャツの襟にコーヒー染みが出来ているなら、早く落とさないといけない。
「じゃあ、来週ここで」
美晴はペコリとお辞儀をすると、足早に会社へと戻って行った。
◇◇◇◇◇
そしてそれから一週間後。
今は十二時十分。コンビニの店内には入らずに、美晴は前に立って二人を待っていた。そろそろ現れる頃だと思いながらぼんやりしていると、道の向こうから走ってくる男性の姿が見えた。
「お待たせしました」
美晴にハンカチを渡した、ピレネー犬の方。井草だ。
「あの、もうひとりの方は」
「柿村は、今日はいません」
少し強い口調でそう言うと、じっと美晴を見つめる。
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