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「いいお店を教えていただき、ありがとうございます。こっち方面には行かないんで、こんなお店があるとは知りませんでした」
「お役に立てたなら何よりです。それじゃ」
「あのっ」
立ち去ろうとしたところで呼び止められ、美晴は振り返った。井草が弁当の入った袋を両手で抱え、美晴を真っ直ぐ見つめている。
「名前も名乗らず、すみませんでした。俺、井草 健斗と言います」
「……私は、浅川 美晴です」
なんとなくつられて自己紹介をしたが、今更これは必要なんだろうかと美晴は思う。そんな彼女の考えを読んだのか、井草が一歩近付いた。
「あの、ここを教えてくれたお礼に俺のオススメも教えたいんで、今度一緒にランチ食べに行きませんか?」
誘う文句は軽いのに、切羽詰まった言い方と強張った表情が重々しい。なんだか果たし状を突きつけているような迫力だ。ただその瞳が不安げに揺れていることに気付き、美晴はつい笑いそうになってしまった。
「魅力的なお誘いですが、私の昼休憩って十一時半からなんで、多分井草さんたちと合わないのではないかと」
「あ……」
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