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今度は捨てられた仔犬の雰囲気だ。なんだか胸がきゅっと苦しくなって、美晴はとっさに思いついたことを口にしてみた。
「夜ご飯とか、……どうでしょう?」
つい言ってしまったが、図々しい提案だったかと不安になる。だがその心配は杞憂だったようだ。一瞬だけ井草の目が見開いて、それからゆっくりと細められた。その目元の変化だけで、彼が尻尾を振って喜んでいるように見えてしまう。
「連絡先、交換していいですか?」
「はい」
「名前、miharuになっている……。あの、美晴さんって呼んでもいいですか?」
「え、いいですよ。井草さんは……、ケンケン?! 」
言葉の響きから犬を二つ重ねたように勝手にイメージされてしまう。しかも古いアメリカのアニメーションでそんなような名前の犬がいたことを思い出すと、もう耐えられなかった。思い切り吹き出してしまい、美晴は慌てて口を押さえる。
「なんでそこで爆笑……?」
解せない表情の井草を前に、より一層笑いがこみ上げる。けれどこのままでは相手に失礼だと思い、美晴は必死に笑いを抑えた。
「わっ、私は、井草さん呼びでっ」
「……まあ、今は」
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