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毎回とても楽しそうにおにぎりの具について悩み、真剣に選び、買ってゆく。もちろんそれ以外のおかずも買ってはいるのだけれど、配置のせいでイートインコーナーで聞こえるのは、いつもおにぎりの話題からだった。
テンション高めで相方に一生懸命話しかける小さい方は小型愛玩犬のポメラニアンをイメージさせ、それに対し口数少なく応えるのは大型牧羊犬のピレネー。美晴の中では、二人は犬種の違う仲の良い二頭のワンコだ。
日々の生活は慎ましく。でも毎週水曜日のささやかな贅沢、ランチ外食で気持ちを奮い立たせ、週の後半を乗り切る。そんな贅沢の仕上げが、この二人のほのぼのとしたおにぎりトークだった。多分、美晴より年は下なのだろう。社会に出てまだ数年。お昼休みの会話で学生時代のノリに戻れる、そんな彼らがなんだか眩しかった。
彼らがおにぎりを選び、別のコーナーへと去っていったのを気持ちの区切りとして、美晴はスマホの時刻表示を確認する。十二時二十分。もう出なければ。出来ればこのコーヒーカップを捨てていきたいが、微妙に残っている気もしていた。ゴミ箱の前でカップの蓋を開けると、案の定飲みかけが残っている。
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