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この量なら、飲み切ってから捨てた方がいい。
そう判断して、美晴が蓋の開いたカップを口元まで持っていくと、肩にトンと衝撃があった。
「あ」
カップの角度がズレて、口元にコーヒーがかかってしまう。
「あ」
「あーっ」
同時に二人の男性の声がした。
「すみません」
「井草、お前なにやって、って俺がお前押したからか。すみませんっ」
そう言って謝るのは、おにぎりの具について熱く語っていた二頭のワンコ。いや、サラリーマンだった。レジ前で小柄なポメラニアンが井草と呼ぶピレネーをなにかの拍子で押し、それをかわした井草の腕が美晴の肩に触れたらしい。
「いえ、私もこんなところで立ち止まって邪魔していたので」
二人の焦り様に逆に驚いて、美晴はハンドタオルで慌てて口元を拭った。そもそも、入り口の出入りのあるところで場所をふさぎ、しかもカップの蓋を開けて直接残りのコーヒーを飲もうとしていた方が悪いのだ。ついでに言うならこんなオフィス街のコンビニで、大人の女性らしからぬ行為だった。二人がかりで謝られると、逆に恥ずかしい。
「あの、それじゃあ」
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