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クスクス笑いながらそう言うと、美晴は今度こそ歩き出した。でも店を出たところで、すぐに後ろからの声に捕まってしまう。
「ならせめて、ハンカチ使って下さい」
振り返ると、井草が美晴を真っ直ぐ見つめていた。
「でも」
「使ってください」
ぐいっと、手にハンカチを押し付けられる。そしてそのまま、拒否されまいとするかの様に手を包み込まれた。
「ハンカチ、返してもらわなくていいんで」
「手……」
「え?」
無意識の行動をどう指摘すればよいか迷い、美晴が握られた手を見つめる。その視線を追うように井草も下を向き、己のしていることにようやく気が付いたらしい。ビクリと身体が跳ね、勢いよく手が離れてゆく。
「失礼しました。……やることなすことさっきから俺」
多分、美晴とは二十センチは身長差があると思うのだが、その顔が最大限にうつむいていて、表情が見えない。でもその肩の落ち具合から、叱られてシュンとしている牧羊犬の絵面が浮かんで、美晴はまた笑ってしまった。
「あの、来週、この時間にここに来られますか?」
ふと思いついたことがあって、笑いながら井草に聞いてみる。
「はい?」
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