おにぎりの具なんにする?

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 そう言うと、美晴は井草の返事を待たずに歩き出す。昼休みの時間は限られているのだ。  井草がやって来たのとは反対方向、コンビニの二軒先の細道を右に入り、一本奥の道に出ると、そのまま真っ直ぐ美晴の会社に向かうように歩いていく。五十メートルほど行ったところに、お目当ての店はあった。 「ここ?」 「ええ、ここ」  木枠で摺りガラスの引き戸のついた、モルタル一軒家。まるで昭和の赤ちょうちん酒場のようだが、引き戸の上に小さな手作りの看板が掛かっていて『お弁当 (かず)ちゃん』と書かれている。今はランチタイムのためかその戸が開いており、中が覗ける。店内はカウンターとその奥にキッチンしかなく、そのカウンターにお弁当が敷き詰められていた。 「いらっしゃーい」  七十は超えてそうな老夫婦がカウンターの向こうにいて、二人が入って来たのを見て挨拶をする。狭い店内にはすでに客が数人いて、カウンターに置かれた弁当や惣菜を選び取ると、レジに並んでいた。 「昔からあるお弁当屋さんなんです。とにかく量が多くておかずの種類が豊富でなおかつ安くて、女性だとお肉系のお弁当はちょっと食べ切れないくらい」
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