13 美少年より美猫です

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13 美少年より美猫です

「俺も、ニーナと同じ転生者です」 「ええ!」  思わず声を上げ、慌てて口を押さえる。  ここで目立てば、ヒロイン補正のせいで人が集まってきかねない。 「ここは会場の端で人も少ないし、大丈夫ですよ」  ニーナの懸念を理解しているらしいエドは、そう言いながらも周囲に目を配っているのがわかった。 「俺は元々体が弱くて。持病があるわけではないのですが、すぐに体調を崩してしまうんです。おかげで、周囲には心配も面倒もかけていました」 「そんな風には見えないけれど」 「それは、ニーナのおかげです」 「私?」  全く身に覚えがないが、何かしただろうか。 「今回のラッキー転生キャンペーンは、説明した通りヒロインの担当が難航していました。そこで、神はスカウト役として俺に声をかけて来たんです」  なるほど。  ヒロインは女性なのだから、むさくるしいおじさんよりは美少年の方が話がうまく進みそうだ。  そうすると、ニーナの所に武器である顔がわからない状態で来るのはおかしい。  いや、ニーナの場合は美少年よりも美猫の方が嬉しいし、心を許す。  そういう意味では、的確な判断だと言えた。 「だから、私には猫姿だったのね」 「いえ。別にニーナに猫姿を見せようとしたのではありません。最初にクラリッサに契約開始の説明をする時には、このままの姿で行ったのですが。何というか……大変に絡まれまして」  突然の美少年来訪なのだから、不審者だと騒がない限りは、大興奮なのかもしれない。  ちなみに、ニーナは完全に前者だ。  つくづく、エドが猫で良かったと思う。 「当選者の悪役令嬢と会うのは一度だけなので良かったのですが、ヒロインとは何度も会う必要があります。毎度絡まれるのはさすがに疲れるので、神にお願いして姿を変えてもらったのです」 「そこで猫を選んでくれたことには感謝するわ。おかげで、史上稀な美人猫を堪能できたわ」  猫は猫の時点で既に可愛いが、それにしても白猫エドの美人ぶりは素晴らしいものだった。 「……俺は、当選者の望むヒロインを演じる者を見つけ、ざまぁされた暁にはこの体質を治してもらう契約なんです」 「体質って」  確か、ニーナの契約時にアイーダの病気は治せないと言っていたから、そういうものは無理なのかと思っていたのだが。 「前にも言いましたが、契約で他の人間の病気を治したりすることはできません。ただし、契約者本人の場合には有効になります」 「……そう、なのね」  少しだけずるいとか羨ましいと思ってしまった。  自分の浅ましさが嫌になる。  仮にアイーダにチャンスがあったとしても、クラリッサと一緒に学園に通うのは無理なので、結局は不可能な話だ。  苦痛の緩和をしてもらえるだけでも、十分にありがたいと思わなければ。 「ニーナがヒロインらしくすればするほど、俺の体質は改善されます。おかげで、今はだいぶ調子が良いです」 「……そう。なら、良かったわ。持ちつ持たれつということね」  ニーナがヒロインらしくすれば、アイーダだけでなくエドまで良い効果が現れるということだ。  それは、頑張った甲斐があるというものである。 「でも、何で人間の姿でここに? 契約ではエドの姿を見せる必要はないでしょう。……もしかして、私を助けるためにわざわざ来てくれたの?」 「ニーナがこうなるのは、わかっていましたから」  ヒロイン補正で身動きがとれず、空腹だと見抜いていたのか。 「ありがとう、エド」 「それもありますが。あとは、ニーナと話をしてみたかったんです」 「話なら、いつもしているじゃない」  エドは定期的にニーナの部屋に来ているし、毎回進捗報告で話をしている。 「あれは、俺だけど俺じゃないでしょう。神の使いで猫のエドです。……俺は、エドモンド・ゼラーティ。ゼラーティ公爵家の次男です」  ニーナは思わずぽかんと口を開けてしまう。 「公爵令息、だったのね。……なら、こんな風に砕けた話し方じゃ駄目よね。いえ、駄目ですよね」  何だかエドが遠くなってしまった気がしてしまうのは、根っからの平民気質のせいだろう。 「いえ、良いんです」 「でも」 「ニーナはそのままで、大丈夫です」  公爵令息に対して、平民がこの話し方で良いはずがない。 「……なるほど。ヒロイン補正ってこと? 普通なら許されない言葉遣いでも、問題視されないってことね。それとも、これを悪役令嬢に注意されて、嫌がらせだと吹聴しなさいってことかしら」  面倒ではあるが、ある意味王道だ。  平民ごときが馴れ馴れしい口をきいて良い相手ではない、というやつか。 「そ、そうじゃないです」 「じゃあ、何?」 「……だから、ニーナと話をしたかったんです。猫のエドではなく、エドモンドとして」  そんな風にじっと見つめられると、美少年が輝いているので眩しい。  ヒロインよりも悪役令嬢よりも美しい神の使いの少年って、何なんだろう。  ニーナも別に不美人というわけではないが、美醜の次元が違う。  これでも一応女の子なので、少しばかり切なくなった。 「そう。それで、何を話すの?」  ニーナが聞いた瞬間、会場の中央からクラリッサの声が聞こえてきた。  ソファーから立ち上がって様子を窺うと、どうやらディーノと何か揉めているらしい。  メイン攻略対象と悪役令嬢がいるのなら、それはイベントだ。  ヒロインが参加しなくてどうする。 「――大変、出遅れたわ。クラリッサ様ったら、登場人物が揃わないのにイベントを始めようとするのよ。行ってくるわね」 「……行ってらっしゃい、ニーナ」  慌てて飛び出すニーナを、エドモンドは寂し気な笑みで見送った。
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