3.ひろみ出発

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3.ひろみ出発

 日曜日の午後、昼食の後片付けを終えたひろみは荷造りに忙しかった。  大きな旅行用のトランクに、服を詰めたり出したりしている。  三姉妹がリビングで遊んでいるのを横目に、たけしはソファーに寝そべってスマホをいじっていた。 「たけし、花はキティちゃんだからね!」  そんなたけしに、荷造りをしているひろみからの声がとぶ。 「わかってるよ」  たけしは重い体をゆっくり起こしてしぶしぶ立ち上がると、花の姿を探す。  せっかくの休みもいつもこれだ。ひろみからあれしろこれしろと指示が飛んで、落ち着かない。  まあいいさ、何せ明日からは自由な一週間の休暇なのだ。ひろみにあれこれ言われるのも今のうちだけだ。  本当は63万円を回避するためのひろみのリフレッシュ休暇なのだけれど、今のたけしにとっては自分が自由にできるということの楽しみしかない。 「ほら、花、パパとトイレいくぞ」 「まだあそぶー」  たけしは逃げる花をつかまえてトイレに連れて行く。  三女の花はトイレトレーニング中だ。寝る時や外出する時はオムツだが、家に居る時は大好きなキティちゃんのトレーニングパンツを履いている。  まだ自分一人ではトイレに行けず、遊びに夢中だと忘れることもあり、定期的に声をかけてトイレに連れて行く必要があった。  たけしはトイレにキティちゃんのおまるを設置して花を抱き抱えて便座に座らせようとすると、花はたけしの手を押しのけた。 「じぶんで!」  自分からトイレによじ登り、キティちゃんにまたがる。  なんだ、自分で座れるのか。 「すごいじゃないか、花」  ほめられた花は自慢そうにニヤッと笑う。こんなところはやっぱり可愛いなと思う。
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