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6.たけしと洗濯①
仕方ない、洗濯機を回すか。
たけしは重い足取りで洗濯機に向かい、去年買ったこの乾燥機付きのドラム式洗濯機と初めて向き合う。
前の洗濯機はまだ使えたけれど、ひろみが乾燥機付きのものを欲しがったのでしぶしぶ買ったのだった。
洗濯物を投げ込みながらふと見ると、ひろみの手書きの紙がこの洗濯機の上にも一枚あることに気付いた。
全くひろみは大袈裟なんだから。
たけしは結婚前に一人暮らしの時期があったから、洗濯ぐらいはしたことがある。洗濯なんて説明をきかなくてもできるのに。
そう思いながらも、とりあえずその『洗濯について』と書かれた紙を読んでみる。
①洗濯ネットに入れるものリスト
☆マスク
☆リボン付きの服
☆お弁当やコップの袋
☆……
あ……あぶなかった!
投げ込んだ洗濯物の中から急いでそれらを救出し、洗濯ネットに入れ、再び洗濯機に戻す。これでもう大丈夫だ。
全自動ボタンを押すと洗濯機が自動で重さを量り、表示する。
この表示だと、6kgということか。よし、洗剤量は……ん? たけしは液体洗剤のボトルを手に取って固まる。45リットルって、目盛りがリットル表示じゃないか!
洗濯機のキログラム表示と、洗剤のリットル表示が噛み合っていない。
6kgって、何リットルなんだ?!
ちらり。たけしは再び、ひろみが書いた『洗濯について』の紙を見る。
②洗剤、柔軟剤、漂白剤
表示が○○なら、キャップのこの線まで
キャップの絵付きで、表示ごとに丁寧に説明があった。しかも洗剤だけでなく、柔軟剤や漂白剤の文字も。戸棚からそれらしきボトルを取り出して、それぞれの表示を『洗濯について』の紙で確認し、投入口へ入れる。
ひろみの書いたこの紙には、一通り目を通しておく必要があるな……。今更ながらそう思った。
*******
ピーッ
洗濯を終えた洗濯機に向かう。
ひろみに言われてしぶしぶ買った、なんて言っていたけれど、今となっては買った自分を誉めてやりたい気分だった。
干して取り込むという手間が省けるのはありがたい。
『洗濯について』の紙の注意事項にある、乾燥機にかけてはいけない洗濯物だけを取り出し、乾燥ボタンを押した。
*******
くそ、面倒だな。
たけしは乾燥が終わった洗濯物を引っ張り出していた。
絡まる洗濯物をほどきながら洗濯かごに入れて、リビングに運ぶ。
「あ、こら、花!せっかく畳んだのに……」
ぬいぐるみと手を繋いだ花が、タオルを蹴散らしていく。
しかしどうだろう。シャツも、ズボンも、トレーナーも、パンツまで、全部裏返しで出てくる。
一つ一つ手を突っ込んでは表に戻すけれど、子ども服は小さいためひっくり返すのも楽じゃない。
「桜と桃に、一言、言ってやらないとな」
そう思いながらつかんだ自分のトレーナーの袖も、片方が引っ込んでいた。
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