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たけしは花の横に寝転がった。
スー、スー、とかわいい寝息が聞こえる。
穏やかな午後も、たけしの内心は穏やかではなかった。
「小笠原さん、ちょっと」
さっき電話越しに聞こえた男性の声が耳から離れない。
ひろみのことを『小笠原さん』と名字で呼ぶ人は、もちろん実家にはいない。親戚にもいない。
誰だろう。友達?
いや、そんなに中の良い男友達がいるなんて聞いたこともないし、友達なら『小笠原さん』はおかしいか。
思い当たる人物がいないので、たけしの頭の中のモヤモヤはどんどん広がっていく。
たけしはひろみのことは全部わかっていたつもりでいて、すっかり安心しきっていたけれど、一度不安な気持ちが入り込むとそれはなかなか抜けない。
もしかして、誰かとこっそり会っているのだろうか。
不倫、とか……
いやいやいや、ひろみに限ってそんなことは。
いろいろと考えていると、この留守番の持つ意味はたけしが思っていたよりも深いのかもしれないと思えてくる。
まさか、ひろみは離婚とか考えているんじゃ……
とりあえず何としてもこの一週間を無事に乗り切らなければ。
たけしは決意を新たにした。
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