S1 あくまでお芝居

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S1 あくまでお芝居

『あずみ、おれのことどう思ってる?』 『ど、どうって?』 熱を込めた彼の声に耐えられず部屋を出ようとしたわたしの手の上から彼がドアノブを握って、それを止める。 ドアと彼の間に挟まれ、とたんに身動きが取れなくなってしまった。 『こっちを見て、あずみ』 動揺するわたしの肩をつかむと、容赦なく振り向かせる。 細く長い指が、わたしの肩から、髪、頬へと触れていく。 『おれは子供の頃から……君を』 『こ、子供の頃? わ、わたしたち、出会ったの10日前でしょ?』 ど、どもっちゃった! 彼の整った顔が間近に迫ってきて、セリフが飛びそうになる。 子供の頃から知ってるのに、こんな熱っぽい目で、切ない声で言われると……なんだか、なんだか…… 知らない人みたいだ。 『子供の頃から君の話を何度も聞いて、君の全てを知ってるつもりだったけど、全然違った。実際の君は向こうみずで、人の言うことを聞かないし、可愛げもない。なのに……おれはもっと惹かれていった』 「れ、じゃなくてトキオ……』 ま、間違えた! もう、こんなの、やっぱりムリ〜! だって、どうしても自分が言われてるみたいに錯覚しちゃうよ。 『君を好きになることは、あの人を裏切ることになるのに』 えっと、わたしのセリフ……セリフ……??? なんでこんなに顔が近いの? 彼の手がわたしの頬を撫で、顎に下りてきて、親指が唇に触れる。 こんなシーン、だったっけ?
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