4人が本棚に入れています
本棚に追加
いい話ではない。
青志は本能的に、それを察知した。
だが、呼ばれたからには、ついていかないわけにはいかなかった。
なんの話をされるのかは、まだわからない。
白衣の裾を揺らめかせて歩く富山の背が、妙にいやらしく感じた。
「富山先生、ちょっと」
ナースステーションを横切るときに、看護婦に呼び止められた。
「後にしろぉぉぉ」
間髪入れずに、富山の鼻フックが看護婦の両鼻の穴を捉えた。
寸分の狂いもなく、的確な攻撃だった。
「せ、先生、もしかして、私のこと・・・・・・」
看護婦は顔を赤らめたまま、立ち尽くしていた。
診察室は、とうに通り過ぎていた。
オペ室も通り過ぎた。
霊安室も。
一体、自分はどこまで連れて行かれるのか。
青志の不安は、最高潮に達しようとしていた。
「あ、あのぉっ」
「しっ。生臭い、静かにして」
富山は青志の方へ振り向くなり、鼻を摘んで、顔を歪めた。
青志はより、わけがわからなくなった。
そんな青志を他所に、富山はどんどん階段を登っていった。
青志も遅れまいと、ついて行った。
富山が急に歩くピッチを上げた。
富山と青志との距離が、一気に空いた。
鬱陶しい奴をまくようなペースだった。
青志も喰らい付いた。
病み上がりとはいえ、体力には自信があった。
最初のコメントを投稿しよう!