青魚

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「はっ、はっ、はっ、ぶふぁー」 扉を閉めてから、青志の目が見開いた。 マグロだった。 かなりの目力だった。 イカといい、マグロといい、魚介ラッシュを匂わせる事態に、青志は言葉が出なかった。 間違いなく、青志の個人情報は流出していた。 そうでなければ、1日の間にイカとマグロが押しかけてくることがあるだろうか。 「一体どこから」 拳で軽く壁を叩いた。 スマートフォンもそこまで使うわけでもなく、ましてやパソコンなんてもっと使えない。 個人情報が記載されている書類は、毎回跡形もなく燃やしきっている。 それらからは、一切漏れる術がないのだ。 頭を悩ませていた青志の耳にまた、嫌な音が飛び込んでいた。 ピーンポーン 青志は激しく寒気がした。 インターフォンモニターを、恐る恐る確認した。 誰も映っていない。 いや、カメラの外にいるのかもしれない。 そういった疑念を抱えつつも、その場で30秒ほど待ってみた。 相変わらず、なんの気配もなかった。 わかった。 いたずらか。そう心の中で確信、あるいは思い込んだ。 ひとまず、確認が必要だった。 本当に誰もいないのか。 単なるピンポンダッシュなんだろうか。 青志は自身の鼓動が、徐々に速くなっているのを感じた。 ゆっくりと躊躇いがちに、ドアノブに手をやり戸を押した。 やはりいざとなると、恐怖は瞬間的に何倍にも膨れ上がる。 青志は目を閉じた。 恐らくいるとしたら、この流れであると魚介類だろう。 思い込みからか、磯の青臭さが鼻に抜けた。 青志の左瞼が上げられていく。 何もない。 誰もいない。 「ふぅ」 全身の力を抜くように、青志は大きく鼻から息を吐き出した。
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