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「す、すみません」
青志はすこぶる嫌な予感しかしなかった。
誰もいないところから声がしたら、それは間違いなくいいことでははない。
「誰だ。どこにいる」
「ここです」
ヒトデだ。
オレンジ色をした、ファッショニスタだ。
5本あるはずの手は、4本しかなかった。
そのうちの1本を、精一杯かかげていた。
「どうもすみません。分裂しようと思ってちぎったらこの様で」
ヒトデは地で仰向けのまま、手をゆっくり動かしていた。
「なんかいいことないですかねえ」
ヒトデは疲れ切っていた。
どうやら、手がちぎれたことに加えて、知り合いのヒトデの連帯保証人になったところ、まんまと騙されたらしい。
「借金は全然減らないし、減るのは収入と限りある資源ですわ」
青志は、ヒトデに同情せざるを得なかった。
「ちょっと待ってて」
青志は奥へ引っ込み、すぐに玄関まで戻ってきた。
「これ、使って」
手にしていた財布から、青志がカードを取り出した。
「これは・・・・・・」
「子育てパスポートだ。取扱店のレジで提示すれば、買い上げ価格から50円引かれる。積み重ねればバカにならん金額だぞ」
えらく自信ありげな説明だった。
「僕、独身ですけどそれでもいいんですか?」
ヒトデの声色が曇った。
青志の子育てパスポートを持つ手が、震えた。
墓穴を掘ったのか。
良かれと思ったことが、裏目に出てしまった。
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