お話しのはじまり:ハイジャラテー

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お話しのはじまり:ハイジャラテー

オモホイの国は寒い。 北極の近くにあるためだ。 夏は雪がなく涼しい。冬は雪が多い。ヒゲも髪も凍るほど寒い。 私は昔話研究家としてオモホイの国に来ている。 オモホイの人たちは独特の歌、法律、文化をもつ。 オモホイの人たちは昔話を聞くのが好きだ。昔話はシャーマンが良く知っている。 シャーマンは村の占い師である。それだけでなく、彼らは昔々からのお話しを次の世代へ伝える役目もある。これを昔語りというそうだ。 私はその家にお邪魔し、昔語りを記録させていただいた。研究結果を私の国に持ち帰るつもりだ。 冬。寒い青い夜。シャーマンの家の囲炉裏は赤く燃えていた。 三本琴を世話人が部屋の隅でポロン、ポロンとまばらに奏でる。 木製の琴のつるつるした表面にゆれる赤い火がぼやっと写る。 ぱちっ、ぱちっ、と火が散る。 やがて、一人の老いたシャーマンが静かに口を開いた。 ======= このお話しは私のおばあさんから聞いた。 おばあさんの名前はハイジャラテーといった。私の名前と同じだ。 おばあさんもそのまたおばあさんから聞いた。 そのおばあさんのおばあさんもハイジャラテーという名前だった。 むかしの事は誰も知らない。 けれど、おばあさんたちの残した物語だけが昔々のことをよく知っている。 だから、なぜ王様が偉いのか。なぜ兎の耳が長いのか。よく聞いてごらん。
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