4話 まだまだ続く、猫と、テスト勉強

1/1
前へ
/20ページ
次へ

4話 まだまだ続く、猫と、テスト勉強

 その日は、英語と国語までで終わった。  バカだと言った西尾くんだけど、それは嘘だ。  確かに知らないポイントは多かったけど、結局授業を受けられていなかったからだった。  しっかし、こういうフォローって、本人が頑張るしかないのかな……。  帰りに猫の砂場掃除をしてから帰るという私に、西尾くんが付き合うという。 「うんこ取るんだよ?」 「女が、うんことかいうなよ」 「なら、うんち?」 「……もういい。オレ、あっち取るから。お前、向こうな」  彼が砂場キットを持って行ってしまったので、私はナイロン袋を2枚手に、砂場に向かう。  しかしながら、ひょろっと背の高いイケメンDQNの彼が、砂場のうんこ掃除をしている後ろ姿は、なんと、かわいいのだろう。  写真撮っとこ。 「お前、なんか撮ったか、あぁ?」  地獄耳だな。 「猫ちゃん、撮ったぁー」  言い返すと、ふんと顎をしゃくって、猫のうんこを再び取り始めた。  私の砂場の方は、あんましないみたい。ハズレだ。  そうやって片付けを終えた私だが、改めて西尾くんの前でスマホを取り出した。 「家でも勉強するでしょ? 連絡先、交換しない?」 「あぁ?」 「スマホ、持ってなかった? ごめん」 「……もってっけど……」 「あ、いや、その、嫌ならいいんだけど」 「そーじゃねぇ。……オレのこと、晒すんじゃねぇぞ? あぁ?」 「それはこっちのセリフだし!」  そのとき、ツイッターの通知がついた。  ……きっとアイツだ。 「お前、ツイッターやってんのかよ……」 「友だちにすすめられて。でも、全然ツイートしてないよ?」  私はツイッターの画面を見せた。  投稿は去年の11月2日で止まっている。  いや、投稿できなくなった。……アイツのせいで。 「なんか、封筒のマークんとこ、赤くね?」 「これ? 個人宛にとどくメッセージのやつ。……毎日、この時間になったら、なんか届くんだ」 「へぇ……」 「で、連絡先、交換する? しない?」 「……わかったよ! すりゃいいんだろ?」 「わかんないことあったら、問題写メってメッセに流して」 「はいはい」  ID交換したのを機に、スタンプを送る。  「よろしく」としゃべる猫のスタンプだ。  すぐに返信が来た。  『うぜぇ』 「口で言ったら?」 「うぜぇわ、マジ」 「はいはい」  ───そんなわけなので、彼とのやりとりは用事のみ。  私はこれが本当に楽で仕方がなかった。  みんなに合わせていたけれど、雑談をメッセでする意味がわからない。  いや、雑談が楽しいときもあるけれど、大概はどーでもいい話ばっかりだから。  西尾くんとの勉強は、意外と順調に進んでいたが、学校での彼は……… 「西尾くん、おはよ」 「黙れ、チビ」 「おはよう、西尾くん」 「うるせぇ」 「おはよ、西尾くん」 「黙れって」  ……これは、先週までの西尾くんだ。  今週はどうだろう?  少し、ワクワクする私がいるが、今日は生憎、彼が好きそうなフィッシュ味のチュールはない。 「西尾くん、おはよう」 「……おう」  奇跡が起きた……!!!  返事が返ってきたのだ。  今週でテスト勉強を完璧にしなければならないタイミングでの、ちょっとなついた感!  めっちゃいい!  保護猫活動してて、よかった! って思う瞬間だ!!!!  ……ただ、女子の西尾くんの印象が変わり始めてきた。  特に、麗愛菜(れおな)。 「やっぱ、西尾ってかっこよくね?」  前から目、つけてたもんね。  距離が縮められる可能性を察したようだ。 「ね、澪、最近さ、西尾くんと仲良くない?」 「良くはないけど」 「そうなの? あたし、ちょっと話してみたーい」 「急に近づくと、怒ると思う……」 「え、カノジョ気取り?」 「いや、違うし」  私が「いいえ」と言ったからだろうか、特攻をかました麗愛菜だが、速攻返り討ちに遭っていた。  そして、私を睨む西尾くん。  いやいや、勘弁してよぉ……。 「ガチギレされたんだけど。でも、やっぱ、西尾イケメンだし、アタックしたい。澪、ちょっと手伝ってよ」  私は笑顔を作れていただろうか。  ちゃんと笑えていただろうか。  「うん」と言えただろうか……。  スマホが震える。  麗愛菜がいなくなった隙に開いてみると、 『まじで、お前、止めろよな』 『シネ』  そして、ひとつ、スタンプが来た。  「ゆるしてやるでござる」  威張る猫侍のスタンプだ。  なんだろう……  また土手で泣いたら、虎太が迎えに来てくれるんだろうか……
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加