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4話 まだまだ続く、猫と、テスト勉強
その日は、英語と国語までで終わった。
バカだと言った西尾くんだけど、それは嘘だ。
確かに知らないポイントは多かったけど、結局授業を受けられていなかったからだった。
しっかし、こういうフォローって、本人が頑張るしかないのかな……。
帰りに猫の砂場掃除をしてから帰るという私に、西尾くんが付き合うという。
「うんこ取るんだよ?」
「女が、うんことかいうなよ」
「なら、うんち?」
「……もういい。オレ、あっち取るから。お前、向こうな」
彼が砂場キットを持って行ってしまったので、私はナイロン袋を2枚手に、砂場に向かう。
しかしながら、ひょろっと背の高いイケメンDQNの彼が、砂場のうんこ掃除をしている後ろ姿は、なんと、かわいいのだろう。
写真撮っとこ。
「お前、なんか撮ったか、あぁ?」
地獄耳だな。
「猫ちゃん、撮ったぁー」
言い返すと、ふんと顎をしゃくって、猫のうんこを再び取り始めた。
私の砂場の方は、あんましないみたい。ハズレだ。
そうやって片付けを終えた私だが、改めて西尾くんの前でスマホを取り出した。
「家でも勉強するでしょ? 連絡先、交換しない?」
「あぁ?」
「スマホ、持ってなかった? ごめん」
「……もってっけど……」
「あ、いや、その、嫌ならいいんだけど」
「そーじゃねぇ。……オレのこと、晒すんじゃねぇぞ? あぁ?」
「それはこっちのセリフだし!」
そのとき、ツイッターの通知がついた。
……きっとアイツだ。
「お前、ツイッターやってんのかよ……」
「友だちにすすめられて。でも、全然ツイートしてないよ?」
私はツイッターの画面を見せた。
投稿は去年の11月2日で止まっている。
いや、投稿できなくなった。……アイツのせいで。
「なんか、封筒のマークんとこ、赤くね?」
「これ? 個人宛にとどくメッセージのやつ。……毎日、この時間になったら、なんか届くんだ」
「へぇ……」
「で、連絡先、交換する? しない?」
「……わかったよ! すりゃいいんだろ?」
「わかんないことあったら、問題写メってメッセに流して」
「はいはい」
ID交換したのを機に、スタンプを送る。
「よろしく」としゃべる猫のスタンプだ。
すぐに返信が来た。
『うぜぇ』
「口で言ったら?」
「うぜぇわ、マジ」
「はいはい」
───そんなわけなので、彼とのやりとりは用事のみ。
私はこれが本当に楽で仕方がなかった。
みんなに合わせていたけれど、雑談をメッセでする意味がわからない。
いや、雑談が楽しいときもあるけれど、大概はどーでもいい話ばっかりだから。
西尾くんとの勉強は、意外と順調に進んでいたが、学校での彼は………
「西尾くん、おはよ」
「黙れ、チビ」
「おはよう、西尾くん」
「うるせぇ」
「おはよ、西尾くん」
「黙れって」
……これは、先週までの西尾くんだ。
今週はどうだろう?
少し、ワクワクする私がいるが、今日は生憎、彼が好きそうなフィッシュ味のチュールはない。
「西尾くん、おはよう」
「……おう」
奇跡が起きた……!!!
返事が返ってきたのだ。
今週でテスト勉強を完璧にしなければならないタイミングでの、ちょっとなついた感!
めっちゃいい!
保護猫活動してて、よかった! って思う瞬間だ!!!!
……ただ、女子の西尾くんの印象が変わり始めてきた。
特に、麗愛菜。
「やっぱ、西尾ってかっこよくね?」
前から目、つけてたもんね。
距離が縮められる可能性を察したようだ。
「ね、澪、最近さ、西尾くんと仲良くない?」
「良くはないけど」
「そうなの? あたし、ちょっと話してみたーい」
「急に近づくと、怒ると思う……」
「え、カノジョ気取り?」
「いや、違うし」
私が「いいえ」と言ったからだろうか、特攻をかました麗愛菜だが、速攻返り討ちに遭っていた。
そして、私を睨む西尾くん。
いやいや、勘弁してよぉ……。
「ガチギレされたんだけど。でも、やっぱ、西尾イケメンだし、アタックしたい。澪、ちょっと手伝ってよ」
私は笑顔を作れていただろうか。
ちゃんと笑えていただろうか。
「うん」と言えただろうか……。
スマホが震える。
麗愛菜がいなくなった隙に開いてみると、
『まじで、お前、止めろよな』
『シネ』
そして、ひとつ、スタンプが来た。
「ゆるしてやるでござる」
威張る猫侍のスタンプだ。
なんだろう……
また土手で泣いたら、虎太が迎えに来てくれるんだろうか……
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