7話 ラストスパート

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7話 ラストスパート

 玄関ではいっしょだったが、すぐに私は西尾くんにまかれた。というか、靴を取り出し振り返った瞬間には、もういなかった。  少し息を切らしながら宮島邸に着くと、すでに西尾くんが庭で猫と遊んでいるではないか……! 「おせーぞ、ボケ」 「これでも、早歩きで、来たし!」  部屋に上がると、まとめたノートを見せながら、説明しつつ、覚えつつ……という繰り返し。  だが、こんなに大変でも、西尾くんは真面目だ。  私の説明をしっかり目を見て聞いてくれる。 「……あぁ?」  ほぼ、睨んでいるけど。 「……ちっ」  ちなみに、この舌打ちが返事である。  だが、定期的にくる、 「わかんねぇっつってんだろ、あぁ?」  理解が追いつかなくての逆ギレが、結構面倒だ。  とは言え、逆ギレなのは彼自身もわかっているようで、メンチ切りながらも、彼なりの解釈を伝えてくる。  こういうところから、西尾くんは間違いなく、根は、頭がいい人だ。  しっかり教わる機会がなかったからこその、勉強不足なのがよくわかる。 「西尾くん、すごいね」 「なにがだよ」 「全部の教科、復習が終わったよ! あとは明日明後日で無理やり追い込むのみ」 「オレ、暗記系が苦手なんだよぉ……」  休憩に入ったのを見計らって、宮島さんがコーヒーを持ってきてくれた。  襖を開けると、宮島さんより先に入ってきたのは虎太だ。そこから他の猫たちも続けて入ってくる。 「虎太、よっぽど西尾くんのことが気になるみたいで、ずっとそわそわしてたのよぉ」  虎太のほうは、西尾くんに会えたのがうれしいのか、必死に頭を擦り付けている。  コーヒーを3人で啜りつつ、なんとなく外を見ると、雪がちらついていた。 「積もりはしないだろうけど、最後の雪かしらねぇ」  宮島さんは近くの猫をなでながら、ぼんやりと呟いた。  スマホを見ると、ツイッターのバッジが増えている。  いい加減見とくかと開いたとき、思わずスマホをテーブルに投げていた。 「なに投げてんだよ」  西尾くんが持ち上げるが、その画面を見て、また睨んだ。 「なんだこれ……」 「……個人にくるメッセージのやつ……」 「もろ見られてんじゃねぇか! こんなもん、ブロックしろよ!」  今日、送られていたのは、 『西尾といるのはどうして?』  見られている……  間違いない。 「ブロックしたか?」 「今、する……よし……」 「学校のヤツかよ。キッモ!」  宮島さんは口をへの字にして私を見てくる。  ほーらいったこっちゃない。そう言っている。 「悪いけど、西尾くん、澪ちゃん、家まで送ってあげてくんない?」 「はぁ? なんでオレが」 「あんたがいっしょの方が、危なくないでしょ? しばらく送り迎えしてあげなさいよ。勉強教わってんだし」 「あぁ?」  宮島さんにメンチを切った西尾くんだが、虎太が西尾くんを見上げる。  つぶらな瞳は、何かを語っているが、私にはわからない。 「……くそっ! わかったよ。虎太から言われちゃ、やるしかねぇし……」  どんな会話してたんだろ。  だが虎太は、改めて西尾くんに頭をこすりつけ、甘えている。 「ごめんね、西尾くん」 「あぁ? めんどくせーよ、マジ。つーかフツー、それ、ありがとうじゃね?」  こんなこと、頬を赤らめもせずに言った西尾くんが、やっぱり、かっこいいなって思ってしまった。  これは、純粋な、尊敬だ。 「はいはい、ありがとありがと。じゃ、もう一踏ん張りしようか。宮島さん、問題だして! このノートから」 「まかせてー」  最後の勉強会が終わろうとしている。
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