8話 帰り道

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8話 帰り道

 宮島さんから念押しされて2人で帰路に着いたわけだが、私は西尾くんの家の方向を知らない。 「ね、どっち方面? 私はここから歩いて20分くらい」 「……同じ」 「ん?」 「同じっつってんだろ? あぁ?」 「はいはい」  どうやら近所のようだ。  だが、彼はぐっと歩幅を狭めると、私の背後に着いた。 「……へ?」 「お前、ずっと前、歩けよ。オレ、後ろ歩くから。そこそこダッシュも早いし、間に合うし」 「一緒に帰ればいいじゃん」 「んなもん、オレが横にいるの見られたら、マジで、お前の評価下がるから!」  西尾くんの気遣いらしい。  私はちらりと振り返った。  見ると、3mほど後ろで歩いている。  ズボンに両手を突っ込み、猫背で歩く。  チラチラとした雪は、風で舞い上がっているだけのようだが、意外と雪が似合う男のようだ。 「ねー、眉ピのシルバーアクセ、冷えなーい?」 「……うるせぇー」  返事が来た。  まだ見ていると、 「黙って歩け、チビブス!」 「うるせー」  私も返事をしてみた。  もう一度振り返ると、驚いた顔をしている。  だって、私がうるせーと言ったんだから。 「じゃ、ここ角を曲がって、あの緑の屋根見える? あれ、うち」 「あぁ」 「ここでいいから。して、朝、来なくていいからね?」 「……あぁ」 「テスト、頑張ろうね。今日、ありがとう」 「あぁ……」  手を振ると、西尾くんが腰のあたりで手を上げた。  返事を返す猫の尻尾みたい。  にやけた顔がとれないまま、私は玄関の鍵を開けた。
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