1話 ボス猫が新入を連れてきた

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1話 ボス猫が新入を連れてきた

 背後が気になり、スカートをなでてしゃがみ直す。たまたま近づいてきた三毛柄の子猫をなでながら、マフラーに口元を埋めて振り返ると、宮島さんが縁側に座って笑っている。 「澪ちゃん、ここはあたしの家だから、大丈夫でしょう?」 「なんか、気になっちゃって……」  視線が気になり始めたのは、4ヶ月前ぐらいだろうか。10月の文化祭が終わったぐらいのころだ。ツイッターからの妙なDMが入り始めたのと重なる。 『今日も、あのおばあさんの家にいたの?』 『猫、好きなんだね』 『僕は、犬派だから、犬を好きになって欲しい』  毎日のように一方的なメッセージがきているが、返信はしていない。通知は切っておけば問題ないし、特に鍵もかけずにいる。  だいたい100にも満たないフォロワーは、ほとんどが高校の知り合いばかり。  ただ、その中にいる、と言うだけでも、正直、気持ちが悪いけど、それが誰であるかを知るより、そのままにしておいた方が、いつも通りに過ごせるし、気持ちがラク! 「澪ちゃん、あたし、孫から聞いたんだけど、そのツイッターって、変な連絡、入れられないようにもできるって聞いたわよ?」 「確かに方法はあるんですけど、知っている人の可能性があるので、なんか、それもできなくって……まあ、そのうち、飽きるかなーって」 「前もそうやって、『ことなかれ主義』にして、痛い目みたんじゃないの?」  痛いところを突いてきますね、宮島さん。  そうです。  友だちがメッセで揉めだしたので、私はどちらにも仲良くして欲しくて、どちらにも肯定的にしていたら、いつの間にか、私が一番悪い人に……。  そんなこともありましたよね……。 「砂場のうんち、取りますねー」 「……もう。ま、いいわ。今日はあったかいけど、ココア入れるわね」  ここは宮島さん()の庭になる。  最近住み込みはじめたサビ猫の親子(5匹)と戯れながら、私はうんこを取りに立ち上がった。  猫用の砂場は3箇所。車は5台は停めれるほどの広さに点在しているため、移動がめんどくさい。 「こら、サビちゃん、くっつかないー。蹴っちゃうよぉ……」  砂利と芝生が半々の場所を境に、腰丈の木々が並び、その奥には、日本家屋がどーんと鎮座している。  この縁側が、宮島さんの定位置であり、保護猫活動の拠点でもある。  保護猫活動は、ご夫婦そろって猫好きが高じてと聞いているけど、野良猫の避妊・去勢はもちろん、地域猫の環境整備や、ここで猫ちゃんの譲渡会もしている。うちの白猫のミミも、ここで出会った子だ。 「ここの砂場は、少なめ……と」  確か私がここに通い出したのは、去年の6月。高校に入学して、ちょっと経った頃だ。  意外と時間が経つのは早い。  だって、もう年が明けて、2月2日。2週間後の期末試験を抜ければ、すぐに春休みだ。 「……今日は、うんこ少ないかなぁ……」  砂場キットの、小さなショベルに小さいバケツ。これで、猫ちゃんのうんこを確保していく。  すべて確認し終えたとき、 「にーーーーー」  この声は、虎太だ。  茶トラ猫のオス猫で、ここら一帯のボスでもある。  少し甘えた鳴き方は、新入りを連れてきたときの声。 「はいはい。新入さん連れてきたんだねー。チュールあげようねぇ」  私はポケットに忍ばせていたチュールを片手に振り返ったが、足元には虎太しかいない。 「あら、大きな新入り猫ね」  ココアを持ってきた宮島さんの笑い声が、私の顔を引き攣らせる。  そこにいたのは、うちのクラスメイトで、めっちゃDQNの、西尾勇磨だった────
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