前編

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エコーは悲劇に泣きながら、翌日昼、腹ごしらえをすることにした。 街で店を探すと、店の外にも青空テーブルを出しているハンバーガーショップがあった。彼女は青空テーブルでランチを始めた。 隣の席には、たまたまサークルで一緒のナルキッソスが座っていた。小鹿色の髪の彼はいつものように鏡と熱く語らっている。自分が大好き。 「おれ、かっこいいな! マジ惚れ惚れする! こんなイケメン他にいないよ」 彼女はランチを泣きながら済ませて、やはり泣きながら持ってきたノートパソコンを叩き始めた。 ナルキッソスは自分の顔の手入れを始め、顔面にパックシートを被せた。パックしてる時だけ静か。しゃべるとシワになるから。 彼女は泣きながらクロスワードで遊び始めた。ナルキッソスはパックを剥がし、髪の毛のセットを始めた。「おれ、かっこよすぎだろ!」 彼女はウォークマンをつけた。泣きながら真っ赤な髪を燃やすように振り乱し、激しくヘッドバンキングを始め、一人を満喫していた。その時だった。  「ねーちゃん、かわいいじゃんか。一人?」  「かわいいじゃんか。一人?」 彼女は窮地に陥った。鼻ピアスを着けた、大きく柄の悪い男が絡んで来る。彼女は相手の言葉を繰り返すだけで、拒否ができない。  「気が合うな。ちょっと一緒に遊ぼうぜ」  「ちょっと一緒に遊ぼうぜ」 彼女は辛くてべそをかいた。男につれていかれそうになった時だ。  「そこ! 目障りだ」 ナルキッソスが割って入って、男を突き飛ばした。エコーは巻き込まれてしりもちを付いた。ナルキッソスは言った。  「今忙しいんだ。集中してんだから邪魔をするな」 言いながら、やっぱり髪の毛をセットしている。  「なんだと? 小僧、やるのか」 男がナルキッソスに組みついた。ナルキッソスが男を足技で撥ね飛ばす。自惚れているだけあって、細マッチョは伊達ではないようだ。男は度肝を抜かれて逃げて行った。   ナルキッソスはエコーに言った。  「大丈夫?」  「大丈夫」  「じゃあね」  「じゃあね」  そうして彼はまたテーブルにつき、携帯用の鏡の前で叫び始めた  「おれ、どうしてこんなにかっこいいんだろう。痺れる!」 彼女は彼が眩しくて、心臓がバクバクするのを感じた。
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