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休息②
「やっさし~。つけまつげ、人面魚にあげたんだね」
修子が声をあげると、隣で裕也も笑った。
「人面魚でしょ?どうやって、まつげつけたんだろう?」
「それより、人面魚って、まつげあるんだねー」
良平もお腹を抱えて笑って息をついた。このような話ばかりなら、百物語は怖くはない。不思議な話に興味はあっても、恐怖心を掻き立てるような演出は嫌だった。
真理はほっとした表情を浮かべて懐中電灯の明かりを消す。自分の話がメンバーに喜んでもらえたのが嬉しく、場の空気が凍りつくようなこともなかったので肩の力が抜ける。しばらく、人面魚のまつげに話を咲かせ、そんなに女子って、まつげ欲しいのと普段は聞かないようなことを修子や真理に投げかけけた。化粧っけはなかったが、二人とも可愛らしい顔立ちだ。真理はほんわかした癒し系だが、修子はきつめの美人といった雰囲気。大人しく受け答えする真理とは違い、自分の意見をはっきり言うのが修子だった。
「人面犬も人面魚もよく聞くけど、実際に会ったことあるってやつ聞かねえよな」
良平が頭の後ろで両手を組む。黒縁メガネを指で押さえた裕也が真剣なお表情で口を開いた。
「それを言うなら、学校の怪談とか霊体験とかもないよね」
「体験したことないっていうけどさ、それでも不思議な話や怖い話ってたくさんあるよね」
修子がぶるぶるっと猫のように身を震わせる。
「ないけど、あるんだよね。それもたくさん」
実際に怪異にあった人たちで話を聞けるのは無事に生き残った人だけ。命を失った場合は、こちらの想像で補うしかないのだ。現代の科学で解明して見せても、人は不思議な話や現象を好む。
しばらく話し込んでから、良平が懐中電灯を手にした。明かりを点けると、興味津々と言った表情の三人の顔がならぶ。普段、同級生とじっくり話すことなどなかった良平は嬉しい気持ちもあった。
「俺が知ってるのはさ、口裂け女なんだよね」
ここで三人がひゅうっと息を吸う音が聞こえてくる。耳まで裂けた口裂け女の伝説は小学校の頃から耳タコで、学校から一人で帰れなくなる児童もいた。ここのいるメンバー四人ももれなく同じ体験をしている。
「そこまで怖くないと思うんだけど」
前置きをしてから、ライトの明かりの向こうにいる三人に語り始めた。
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