百物語開催

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百物語開催

住宅街から離れた一軒家。邸宅と呼ぶほどではないが、広い敷地に広い庭、二階建ての家から数歩歩いたところに離れがあった。二階建ての家の二階は電気がついているものの、一階の電気は明るい。ついでに家族の笑い声が聞こえてくる健全な家だ。だが、離れでは、少年少女が集まって何やら集会を開いている。一体何をしているのだろうか。 「えー、それでは、第一回怖がりによる百物語を開催します」 第一回って、次もあるのかよとヤジが飛ぶ中、黒縁メガネにかかる前髪をはらって宣言する。色白で細身の少年は佐藤裕也、この家の次男である。マイクの代わりに手にしているのは懐中電灯、明かりをつけているので顔に妙な影ができる。それでも背筋が寒くなるような雰囲気がでないのは、部屋の蛍光灯が煌々と明るいからに他ならない。 「夏にしないで秋にする百物語も面白いね。夏でも百物語なんてやったことないけど」 肩の下までたらした茶色の髪をおさげにした少女が笑う。ふんわりとした髪質の上に量が多いのでまとめるしかないのだ。彼女の名前は瀬川真理。細身ではないがふっくらとした体型でもない。優し気な印象を与える彼女のやわらかい笑顔が、この場にそぐわないような気もした。その隣で黒髪ショートカットの少女が口を挟んだ。 「佐藤、私たちも泊めてもらっちゃってありがとね」 ヘアピンで前髪をとめてにかっと笑う少女は関口修子。細身でボーイッシュ。活動的な見た目と裏腹に、美術部に所属している。運動は好きなようで休日はジョギングをしているのだとか。 「女子は百物語が終わったら、向こうの家に戻るんだよな」 百物語が終わった後、自分と佐藤は取り残されるようで怖いと笑いながら自らの両腕をさするのは矢口良平だ。小麦色の肌は陸上部に所属しているせいでもある。太陽が照りつける中、毎日、日が暮れるまで走っているのだから当たり前だ。スポーツ刈りの頭にくりっとした目をしていた。 「大丈夫。父さんがこっちで一緒に寝るって言ってくれてるし、トイレもあるからね」 どうしても怖かったら、離れは出ようと笑う佐藤にみんなにぎやかな声をあげた。 メンバーは四人、中学生になったばかりの彼らは、クラスで怪談話で盛り上がっているときその場にいられず逃げ出した人間だった。四つの小学校から生徒が集まるので、お互い中学校で初めて出会った。四人とも部活も趣味も違うように見えるのに、それでも結託したの怖がりという共通点があるせいだった。 夏休みにはお決まりの怪談も、肝試しも、全部パスした彼らはめでたく小心者、怖がり、ダサいのレッテルが張られている。少女二人はともかく、男少年二人は深刻に悩んだ。 「怖い話は嫌いだけどさ、不思議な話は好きなんだよね」 真理が笑うと、裕也が激しく首を振る。 「僕はUFO(未確認飛行物体)が好きだな。エイリアンは平気かも」 「そりゃいいな。俺は全部だめ。おばあちゃんちが、田舎でさ。怖いんだよな~古い家」 「あ、それ怖い!私は都市伝説とかダメ。夜に外歩くの怖くてさ」 修子が笑えば、他の三人も感慨深くうなづいた。怪談話は知らなくても不思議な話ってあるよね。怖くない百物語でもやろうかという話で盛り上がったのだ。 やんややんやと笑っていると懐中電灯を掲げている裕也が困ったように笑いました。 「ごめん。都市伝説っていうかさ、人面犬の話になるけどいいかな?」 修子はびくりと肩を震わせてから、こくこくとうなづいた。いくら怖い話が嫌でも、都市伝説や学校の怪談を避けて通ることはできない。できるだけホラー度の低いものを披露しあう集まりだ。お互い、どれだけ、こわがりか知っているため気が楽だ。なので、怖かったら挙手することに決まっていた。 「速攻で挙手したらごめんね」 上目遣いの修子に裕也がうなづきました。 「大丈夫。僕の話、怖いって言われたことないんだ。怖くないように話すから」 それのどこが百物語だよとつっこみが入りそうな会話だが、メンバー四人はいたって真面目にうなづき合いました。
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