決意

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決意

「一つだけ…」 春は私に一つだけ聞きたいことがあると顔をあげた。 私は言って欲しい、聞きたいと頷いた。 「あのスープですが、美味しかったと言ってましたが本当ですか?」 「え?聞きたいことってそれ?」 私は思いもよらない質問に眉をひそめた。 しかし春は真剣な顔で頷いている。 「そうね、毎日でも飲みたいと思う美味しいスープだったわ。あのスープ…確かここに来た時にも作ってくれたわよね?あの時は余裕がなくて…でも今ならこのスープの素晴らしさがわかるわ」 私は本当の思いを春に答えた。 「わかりました、大変失礼な態度をとってしまい申し訳ございません。私達は元より王蘭様にお仕えする為にここにいるのです。なんでも仰って下さい」 春は笑みを浮かべて私に頭を下げてくれた。 「ありがとう~!よかった」 二人の協力を得られて私はホッとして二人に笑顔を向けた。 「王蘭様、本当に変わられましたね…」 「そ、そう?なんか変なところは遠慮なく注意してね!」 「では…まずはその話し方はいかがでしょうか?私達にお礼などは不要ですよ」 「話し方…実は元からこうなのよ~ここに来た時は憂鬱でほとんど喋らなかったでしょ?喋ればこれよ!」 春と凛々は顔を見合わせ唖然とする。 「あっ!でもなるべく注意するわね!でも二人の前では許して欲しいわ…」 伺うように二人を見つめると 「私は全然構いません!」 「凛々!調子に乗らないの!」 凛々は嬉しそうに笑うが春がたしなめるように注意する。 シュンとする凛々が可愛くてクスッと笑ってしまった。 「では王蘭様はもう少しおやすみください。いくら生まれ変わったとはいえ、死にかけたのは本当ですからね」 「ええそうね、二人に話したら私もホッとして眠くなってきたわ…」 お腹もスープで温まりさらに眠気が強くなる。 欠伸をすると春が困った顔で寝具を肩までかけてくれる。 「ゆっくりおやすみください…本当に目覚めていただきよかった…」 春の安堵する顔を見ながら私は眠りに引き込まれていった。 ◆ 王蘭様の穏やかな寝息が聞こえると私と凛々はそっと部屋を後にした。 厨房に戻ってくると 「春さん驚きましたね!王蘭様生まれ変わっただなんて」 凛々は無邪気に王蘭様の変わりように喜んでいる。 「本当にそれだけでしょうか…」 私は王蘭様の変わりようの理由がそれだけではないように感じていた。 「しかし、あの砕けたご様子ですと后妃候補どころではありませんね。あれではただの町娘のようです」 困った事になったと私はため息をつく。 そんな私には凛々は眉をあげて見つめてくる。 「しかし王蘭様のところに皇帝陛下は一度もいた事がありません!一度もですよ!今回溺れたという報告も耳にしているはずなのに…王蘭様お可哀想です…だからああやって明るくなって頂いたこと、私は嬉しいです」 「そう、ですね。私達は王蘭様の幸せの為に尽力致しましょう」 「はい!」 私は忙しくなりそうだと、この歳ながら胸が高鳴った。
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