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雲垓(ウンガイ)
「へ、陛下…これは…少し拝見してもよろしいでしょうか?」
「ん?どれだ?」
私は雲垓の言う書物を手に取る…それはまさに今南明が向かっている后候補の鈴麗の自殺か事故か他殺未遂かを調べるものだった。
「ん?今南明が向かっている件だな…雲垓何か知っているのか?」
「い、いえ…この鈴麗…様は幼い頃からの知り合いでして…そうか後宮に来ていたのか…」
雲垓と言う男は絵に書いたような真面目人間で兵士としても腕が立ちかなり信頼をおいている男だった。
しかしまさかその雲垓が鈴麗の知り合いだったとは…
雲垓はじっとその書物を食い入る様に見つめている。
「鈴麗が自殺未遂…」
「その鈴麗と言うのはどんな女性だ?」
「はっ!す、すみません…」
雲垓は書物をあった場所に戻すと定位置に戻り話を続けた。
「鈴麗…様とはもう長い事会っておりませんのが…幼い頃はよく人の後ろを怖がりながら付いてくるような子でした…」
昔を懐かしみ思い出すように話している。
「それが…まさか…」
「まぁ事故かもしれぬ、それか殺されかけたか…それを今調べている」
「殺され…!?鈴麗様は大丈夫なんですか!?」
「昨日様子を見に行ったが命に別状はないそうだ」
「よかった…」
雲垓はほっと胸を撫で下ろす。
「先程…書いてあった〝王蘭様〟と言う方と何か…」
「まぁそんなところだ」
雲垓はそれからも何か聞きたそうにするが口を開く事はなかった。
しかしまさかの接点になんだか不思議な縁を感じた。
※
私達は鈴麗様の後宮内に住まう宮殿に到着した。
「失礼する」
南明様が声をかけると中から鈴麗様の女官が扉を開いた。
そして私の顔を見るなり顔をしかめる。
気分は良くないが自分の主人を貶めた相手と思っている今はその態度も仕方ないと言い聞かせて、極力無視をして南明様の後をついて行った。
「鈴麗様、失礼致します」
部屋の一番奥に進むと部屋で一番豪華な扉の前に立つ。
鈴麗様の宮殿は私の宮とは大違いで豪華だった。
「どうぞ…」
少し元気のない声に心配になりながら部屋へと足を踏み入れると…
「よくいらして下さいました…本来なら私が伺いたかったのですがこんな体の調子なのですみません…」
「いえ、それよりもお加減の方は大丈夫でしょうか?」
「はい…話をするくらいなら問題ありません。それで、私と話したい事とは…」
「それは…お二人でも構いませんか?」
私が人払いをあんに頼むと、鈴麗様のそばに立つ女官長がキッ!!と目を釣りあげた。
「鈴麗様!命を狙われた事をお忘れですか?それなのに二人きりになりたいなんて…今度こそお命を狙われてしまいますよ!」
「だから何度も言っているでしょ、彼女は私の命の恩人だと…狙われるなんて絶対にありません」
「鈴麗様は気を失っていたから知らないのです…この方は鈴麗様の唇を盗んだのです」
「……知っています。微かに唇に温かい温もりを覚えていますから…とにかく一度二人にさせてちょうだい」
鈴麗様が女官長を見つめると渋々頷き下がって行った。
「じゃあ私も席を外します…が物音ひとつでもたったら飛び込ませていただきますよ」
南明様にニッコリと微笑まれる。
何かすれば今度は言い訳する前に切り捨てるぞと少しも笑ってない瞳が言っていた。
「はい、はい…」
私は返信を返すと女官から千羽鶴を受け取り、やっと二人きりになれた。
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