発端

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発端

 いわゆる『人外』と呼ばれる存在は恐ろしいものだ。それがその辺の幽霊であれ、妖怪であれ。何をするか分からないし、大抵の人間には防ぐ術が無い。  とは言え、彼らのできる事は少ない。大昔と比べれば随分と力は弱まってしまったからだ。せいぜい、転ばせたり物を隠したりするのが関の山だ。 「なあ、聞いているか?」  しかしながら、流石に神として祀られる存在ともなれば話は別だ。未だに信仰を集め強大な力を揮える存在は一握りだが、廃れた田舎町の神社の一柱でも流石にその辺の小鬼よりは力がある。 「あのクソガキ、柱に石をぶつけていきやがった」  そう。この片田舎にひっそりと佇む寂れた神社に祀られた神も、少なくともその辺に漂うだけの幽霊よりは強いのだ。 「それで?何をする気なんですか?」  うんざりとした顔と声で尋ねた私に、この神様は偉そうにふんぞり返ってこう答えた。 「勿論、祟ってやるのさ」  また、物騒な事に巻き込まれそうだ。いや、この神と知り合って以来ずっと巻き込まれているのだが。  ゴールデンウィークも目前という、普通の中学生なら浮かれまくっているであろう時期に面倒を起こさないで欲しい。だが、そんなそんな願いは届きはしないだろう。 「…面倒だなぁ」  耳聡く私の愚痴を聞いた神様は不敬だと声を荒げ、私の鞄を漁る。 「これは不敬の詫びとして貰っておいてやる!」 「ちゃんと包装のビニールはゴミ箱に捨ててくださいね」  ご満悦で市販のお得用お菓子の大袋を開ける神様に一応、注意をしておく。このご時世にポイ捨ては良ろしく無い。況してや、仮にも自然に寄り添う立場であろう神がポイ捨てなど。威厳も何もあったものではない。と言うか、道理が通らない。  分かっている、という声を意識から遠ざけながら考える。 「さて、どうしようかな?」  取り敢えず、寄るべき所がもう一つできてしまった事だけは確実だった。
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