0人が本棚に入れています
本棚に追加
そう思ってコンビニへ向かうと、屯する男子中学生の集団を見つけた。少し離れた建物の物陰から、彼らの様子を伺う。どうやら買い食いをしているようだ。
普通の人なら顔の見えない距離だが、私は非常に目がいいので彼らの顔が見えた。五人組を端から順番に確認する。違う、違う、違う…。こいつだ。
四人目が先程、神が水鏡で見せてきた姿と同じだ。こいつが神の言うクソガキに違いない。
彼らの会話を聞こうと聴覚に意識を集中させる。どうやらクソガキの名前は佐藤というらしい。どうやらクラスメイトらしいが、記憶には無い。
数分間喋ると彼らは徐に地べたから立ち上がった。解散するようだ。三人と二人に分かれて歩いて行く。目当ての佐藤は二人の方なので、私もその後を追った。
それからまた数分後、ある分かれ道で一緒だった男子生徒と別れ一人になった。狙うならばここだろう。それよりも先に接触し、注意を促すべきだろう。
でも、何と言えばいい?考えていなかった。正直にありのまま話しても、信じてもらえない。寧ろ私の頭を心配されてしまう。この田舎町で、それは避けたい。噂が町中を駆け巡って、学校でハブられる。避けたい。何としても避けたい。
そんな自己保身の逡巡が、隙を作った。油断していたつもりはないが、しっかりと警戒していたとは言えない。失態と言っていいだろう。
神隠し、迷家ー。何でも構わない。佐藤が我々の生きるこの世界とは違う世界に引き摺り込まれた。それは一瞬の出来事で、本人も迷い込んだ自覚は無いだろう。
例えば、世界を分ける布の裂け目から裏側へ行ってしまったようなもの。その裂け目も一瞬だけ出現して、すぐに元に戻った。そうであると認識する事すら困難だった。
けれど、確かに入口は存在した。その事実を認識していれば十分追いかけられる。
「上手くいけば、食事にありつけると思うから手伝って」
そう、自分の内側に声をかけた。返事はない。代わりにズルリと内部を這いずる感覚がある。起きたようだ。動いている様子から、協力してくれるつもりらしい。
声をかけてから数秒後。体から、くろい影のような物が滲み出てきた。幾本もの手のようなそれは、先程少年を飲み込んだと思われる場所を弄っている。空間の裂け目を探しているのだ。
不意に手が空間を掴み、上下左右に引き裂いた。何色とも表現できない空間が広がるそこへ、私は躊躇いなく飛び込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!