大禍時

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大禍時

 何が起こっているのか分からない。いつもの帰り道の筈だった。いや、数分前までは確実にそうだった。友人とコンビニで買い食いをして、彼らと別れて一人で家に帰っていた。  風景はいつもの帰り道と変わらない。だが、明らかに違う。人気がないのはいつものこと。しかし人家の中からすら気配がしないのは異常だ。まるでよく似た別の世界に迷い込んでしまったようだ。  佐藤健太というあまりにも平凡な名前を付けられた平凡な人生に、こんな事が起こる筈がない。そう頭で目の前の現象を否定する。  だけれども、視覚を始めとする自分の感覚はハッキリと異常を認識していた。全身が「おかしい」と叫ぶ。「ここから逃げ出さなければ」と。  そんな焦燥に駆られて当てもなく走り出してすぐ、それに出会ってしまった。 「グゥオッ。グゥェッ…」  嗚咽のような鳴き声を洩らす四足歩行の大型の獣だ。犬に似ているような気もするが、普段見慣れている犬よりも遥かに巨大で毛が多い。目が爛々と光っていて、興奮しているようには見えない。  恐ろしい。その感情が頭を支配して、体を硬直させた。逃げなければと思うのに、一歩も動けない。 「見つけた」  だから、恐怖のあまり幻聴が聞こえたのだと思った。誰かが助けに来てくれたらと、願ったから。都合のいい夢なのでは。  けれども突然、化け物との間に見慣れた服を着た人物が割って入って来た。同じ中学校の制服だ。微かに見える横顔に見覚えがある。最近転校して来たクラスメイトだ。  翻るスカートから覗くタイツに「校則違反」と思うものの、それどころではない。そんな日常てきな思考がもたげたのはクラスメイトと遭遇した安心感か、意外と冷静なのかー逆によほど混乱しているのか。  彼女の髪とスカートがはためく。風が出てきたーいや、獣が生み出している。これは普通の風とかではなく、ファンタジー作品でよく聞く『魔力の奔流』とかいうやつなのでは。そんな場にそぐわないアホな事を考えている内に、風は強さを増していく。  殺意があるかどうかは分からない。しかし、危機的状況なのは分かる。 「何なんだ、一体」 「君が自業自得で神に祟られている」  神に祟られる心当たりは…、ある。石を神社の柱にぶつけた。それだけで、とは思うがこの現状は変えられないので置いておこう。  そんな事よりも、気になる事がある。 「これに立ち向かうお前はなんなんだ?」 「気にするな。これが私の役目だし、利益もある」  さっきの話からしてこれは神の使いでは。それと対峙するのは神と対立する事では?それに利益がある?一体このクラスメイトは何者なんだ?
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