或る浜辺の風景

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いつしかついて来た犬と浜辺に居る。 波がたゞ繰り返し打ち寄せている。 単調なその音のみが、終わる気配も無く、辺り一帯に響いている。 空の青は、海の深い碧に較べると、酷く薄まってしまった様な惚けた色をしており、まるで覇気が無い。海は海で、時折のっぺりと吹く潮気の多い風にゆらゝゝと揺らめき、たゞ手応えの無い波を吐き出して来るだけだ。 まるで(おれ)は、果ての無いだだっ広い景色の中の、黒い一個の点に成って仕舞ったかの様だ。 こんな場所では、何も手につかないし、頭もぼおっとするばっかりで、考えも一向に纏まらぬ。 己は如何して又こんな場所に来て、たゞ突っ立っているのだろう。 などと云う阿呆な考えが頭に浮かんでは、ざざん、ざあ、ざざん、ざあと云う単調な波音に洗われて、足元の砂の様にほろゝゝと流され崩れていく。 あゝ、下らない。 何もかも、如何でも良い。 厭世的な気持を抱え乍ら、海から目を離す。 すると、己からやゝ風上の、少し離れた陸側の位置に、一匹の柴犬が居た。 動物特有の、思考の無い黒々とした瞳が、己を見詰めているのだった。 暫くの間、その柴犬と己は、視線を交し合う。 とは云えども、己の傍まで近付いて来る腹積りは無いらしい。 たゞ、何と無くではあるが、淋しいだけのこの海岸の風景には、そんな距離感が適当である様にも感じられる。 ざざん、ざあ、ざざん、ざあ。 波だけが尚、時間の流れを緩慢にでも進めようと、浜の砂粒を戯れの様に濡らし続けている。
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