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又もいつしかついて来た犬と浜辺に居る。
気が付けば、再び、寂寞とした浜辺の風景の内に己は居るのだった。
如何して、如何やって此処までやって来たのか、とんと憶えが無い。
ざざん、ざあ、ざざん、ざあ、波音だけが響き渡り、己の脳漿までも洗い流し、潮気で蝕んで仕舞っているのかも知れぬ。此処に居ても、一向に頭が晴れぬのだ。
ふと振り返ると、又も、あの犬が居た。
前回と変わらず、一定の距離を空けて、己を眺めているのか海を眺めているのか、ぢっとして動かぬ柴犬だ。
そう毛並みは悪くない様だが、お前も又、はぐれ者なのか。
然らば、己と一緒だな。
くくっ、と笑みが零れた。
己も、豪く落ちぶれたものだ。
こんな何も無い寒村の海岸に居る様な柴犬を相手に、自身を重ねるとは。
情け無さ、自己憐憫も在りつつも、何だか乾いた可笑しさか込み上げて来たのだった。
当の犬の側は、己の零れ出でた感情を知ってか知らずか、相変わらずの黒々とした瞳を以て、此方だか海だか空だかを見詰めて動かぬのだった。
ざざん、ざあ、ざざん、ざあ。
その後しばらく我々は、たゞ連綿と怠惰に繰り返される波の挙動を、或る一定の距離感を保ったまゝ、眺めるでも無く眺め続けたのだった。
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