或る浜辺の風景

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いつしかついて来た犬と浜辺に居る。 相も変わらず、己は変わり映えのせぬ浜辺に来ている。 別に来たくて来ている訳では無い。 為さねばならぬ事も、成したい事も無いが故に、ふらゝゝと海月の様に当ても無く歩いている内に、此処へと辿り着いて仕舞う様だ。百々(とど)の詰まり、吹き溜りの様な場所なのだ、此処は。己みたいな世に弾かれた者が、まるで壊れた発条人形の様に知らず引き寄せられてしまう、空虚な場所なのだろう。 そして又、相も変わらず、いつもの例の一匹も後を付いて来ている。そう、最早『いつもの』となりつゝある事実に、己は不思議と愉快な気分になっているのであった。 然し、此奴は、一体全体何処から己を追って来るのだろう? ふと芽生えた疑問を頭の中で捏ね繰り回すが、如何にも斯うにも脳が回転する気配が無いのである。 そう云やあ、確か先程歩いて横を通り抜けた、港の方で見掛けた様な気がする。 誰かに飼われているのか。一個の野生として生きているのか。何方にせよ、余所者の己にわざゝゝ着いて来るのは、不可解でならぬ。 一体、何なのだ、お前は。 足を一歩、柴犬の方へと踏み出してみる。 犬は動じぬ。たゞ例の黒目で、見るともなく見てくるだけである。尾だけが雄弁に、ぱたゝゝと小旗のように振られている。 あれやこれやと思い悩むのは、お前には、判らぬ思考であろうな。 高まった感情も、お陰でと云ったら良いものか如何か、元の鞘へとすうと収まった。 結局、黒々とした頭の中は晴れぬまま、又も己と背後の一匹は、この海辺で同じ一刻を分け合うのであった。
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