53 自分の手で掴め 3/3

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「分かったよ。直原さんは誘わないよ。だけど水曜日、和馬は参加するよな? 参加するなら必ずヤマギシってヤツを呼んでやるよ」  桂馬は両手を挙げて、那波の事を諦めた様だ。でも和馬の事はしつこく誘う。 「俺は参加しないって言っただろ。変な誤解を那波に与えたくない」  恋人と長続きしない和馬の事を知っている那波だ。もし和馬がそんな合コンまがいに参加した事を知ったら、心変わりしたと思われる。そんな誤解は避けたい。 「さっきも言ったけど情報は自分で得るもんだ。人から買う情報は嘘も混じっているかもしれないんだぜ? たとえ兄弟の俺から買うとしてもだ。この意味、分かるよな?」 「……」 「直原さんが言う『普通なやり方』は直原さんが通すやり方さ。和馬、お前は直原さんじゃないんだ。同じ事が出来ると思うなよ。お前は違う方法で直原さんを支えてやるべきじゃないの?」 「……必ずヤマギシを呼べよな」 「おお! 了解。必ず呼ぶよ。それに()()()()和馬が来るなら、可愛い女の子が来てくれるし、釣れるね、これは」 「顔だけとかまだ言うのかよ。桂馬も同じなくせにさ……」  釣れるだなんて、ろくでもない言い方をする桂馬だ。そのうち本当に誰かから刺されやしないか心配になる。  しかし、和馬はこれ以上言い返す事が出来なかった。 (二課の佐藤は何を企んでいるんだ。桂馬が知ってるって事は、会社を巻き込んで何かに手を出すつもりなのか?)  会社が大きくなるにつれて、バックマージンを貰う等という悪さをするヤツも過去にはいた。その度に桂馬が動いているのは知っていたけど。佐藤はそんな悪いヤツとは思えないのだが。  それでも、大なり小なり那波に影響が出る様な事をしでかすのなら──それは許さない。  中庭を見ると、バーベキューの道具と奮闘している長男、久馬が見えた。 (池谷課長は忘れろよ那波。そして早く俺に……もっと堕ちろ)  心の中で和馬は呟いた。  時を同じくして、那波はお手伝いのタエさんから、田中梨音さんのお父さんが社長の同級生である事──そして梨音さんとの結婚を勧めていた事を知ったところだった。
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