3.mRNAの使い方

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3.mRNAの使い方

 「mRNA」と書いてあれば「メッセンジャーRNA」と読めるほどに、この言葉は浸透しているのではないでしょうか。そんなこともない?失礼しました。  RNAはDNAの進化前、ライチュウの前のピカチュウのようなものだと、前のページで説明したかと思いますが、ではどうしてそんな進化前のものが出てくるのかと言うと、ヒトはこのRNAとDNAを体の中で、正確には細胞の中で使い分けているからなんです。  進化前のRNAは、より原始的な生命体ではまだメインで使われています。これはウイルスにも言えることで、ほぼ全てのウイルスは主な遺伝物質としてRNAを使用しています(正確にはウイルスは生物ではないことは置いておきます)。そして調べた所、新型コロナウイルスも例に漏れずRNAを遺伝物質としています。何が新型だよ、古いの使ってんじゃねぇか、と指摘したい気持ちはグッと堪えましょう。  それに対してヒトなどの真核生物(遺伝物質が核というものに仕舞い込まれている細胞で出来た生物)はDNAを主な遺伝物質としています。染色体というのはご存知かと思いますが、あれはゲノムDNAがうねうねと、折り畳まれた状態で形作られています。では、このDNAは何のためにあるのでしょう。  実はDNAの役割についてはまだ全貌を解明できているわけではないのですが、一つ確実に言えることとすれば、生命体を構成するタンパク質の作り方が記されているということ。  セントラルドグマという言葉は分かりますか?「新世紀エヴァンゲリオン」にて、NERV本部にある巨大な縦穴のことではありませんよ。セントラルドグマとは、DNAを起点としてタンパク質が合成されるまでの一連の流れのことを表した言葉です。これは生物の基本原理とされていて、ヒトも例外ではありません。けれど、真核生物では構造的にここでちょっとした問題が生じます。  前出の「核」はDNAを保護するように全体を覆っています。つまりDNAは核の外に自由に出られないということです。しかし、合成したタンパク質は細胞の外に運ばれることもあります。ということは、DNAは鍵のかかった部屋の中から、部屋の外でタンパク質を作って送り出す、という離れ業をする必要があるのです。これには名探偵金田一はじめくんも驚きです。密室の部屋に居ながらどうやって、部屋の外で作業するっていうのよ。私にはアリバイがあるんだから、的な。はい、ということでここで、真核生物はRNAを使います。  タンパク質が作られるまでの過程は料理に例えられることが多いです。タンパク質という名の、仮に「肉じゃが」を作ろうとすると、まずそのレシピが必要です。レシピは核という名の「図書館」の中にある、DNAという名の巨大な「お料理本」に書いてあります。けれど、このお料理本はあまりにも巨大なため、図書館から持ち出せません。勿論、図書館内にキッチンはないし、飲食も禁止です。ではどうするか。「メモ」を取って持ち出しましょう。真核生物はこの「メモ」としてRNAを使用しています。  まず必要なページを見つけて、それを裏紙にコピー機でコピーします。DNAの内容をRNAとしてコピーすることを「転写」と言って、ここでいう「裏紙」がRNAに当たります。  しかし裏紙にコピーしたはいいけれど、そのページの中から欲しい部分は一部だけです。肉じゃがの大きな写真は要らないし、その肉じゃがに合う料理とか、肉じゃがに関する豆知識とか、どんな時に最適な料理か等、不要な情報が多過ぎます。なのでその裏紙から更に必要な部分だけを書き出してコンパクトにしましょう。この作業は「スプライジング」と言って、RNAからタンパク質合成に必要な部分だけ取り出し ます。  そうして短くなった「メモ」、これをメッセンジャーRNA、mRNAと言います。  mRNAはDNAと比べるととても小さく、核の外に運べますからタンパク質合成に使用できます。  ヒトのmRNAの使い方は大まかに言うとこんな感じです。なお、より詳しく知りたい方は遺伝子工学を受講して下さいね。  さて、つまり次世代ワクチンではこの「メモ」を注射することでタンパク質を作らせようというコンセプトなわけです。何のタンパク質か、というとそれは勿論、新型コロナウイルスの外殻、特に免疫細胞が認識する部分を特異的に設計されている筈です。  なんか急にふんわりした表現になった、ですって?そりゃあ私、こう見えてワクチン専門家ではないので、ここら辺はあやふやですよ。  では次はそんな次世代ワクチンの、モデルナ、ファイザーと、アストラゼネカのワクチンの違いを書きたいと思います。次世代ワクチンについてのページ長いな。
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