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ギャンブルの一夜
【お題:人妻のしきたり 必須要素:トランプを武器にして戦いそうな男】
人妻という言葉を使うとき、そこにはどうしてもアダルトなニュアンスが入り込むような気がする。その証拠に、「人妻」という言葉をインターネットで検索したとき、トップに出てくるのはアダルト動画のサイトだ。
「おい、人妻」
彼がそう呼ぶとき、私はどうしようもなく後ろめたい気持ちになる。彼は行為の最中、時折私のことを人妻と呼ぶ。小馬鹿にするような表情で、ともすれば軽蔑するような顔で、私を見つめながら。
私のことをただの遊び相手だと彼は考えているのだろうけれど、丸眼鏡の奥にある瞳に宿る一抹の優しさに私は縋っている。
「いいのか、子供は」
「……今日は、両親が面倒を見てくれてる」
「お前もたいがいだな」
彼は小さく笑い、「俺もだけど」とつぶやく。そして私の耳を噛む。彼が寂しくなったときにする癖のようなものだ。
すべてが終わった後、鏡に向かってネクタイを締めている彼に背後から声をかける。
「ねぇ」
「なんだ?」
「トランプを武器にして戦いそうだよね」
「おう。俺の戦場はそこだからな」
彼はスーツに身を包み、部屋を出ていく。またカジノに向かうのだろう。彼はギャンブルの世界で戦っている。
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