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アイビスの血液
【お題:傷だらけの心 必須要素:入れ歯】
容れ物だけは完璧なものを用意しようと思った。
少しでも彼女の心の傷が癒されるように。何不自由ない生活ができるように。
詩仙鳥の体毛で結われたウィッグ、瞳には緑色の鏡水晶。肌の感触はできるだけ生前のものを再現して、ヴィスコニウム鉱石でできた義歯でおいしいものをおいしく食べられるように。体躯の長さは160センチメートル。彼女が理想としていた高すぎず低すぎない長さ。特に脚はすらりと長く、大地を思うままに駆けられるように。
何不自由ない環境と、状況を。
人形技師の私にできることはそれだけだ。
肝心の彼女の心をどうこうする力はない。
「じゃあ、起動するね」
妻に――妻の心を移植(うつ)した人形に声をかける。
妻は青色の鏡水晶越しに私を見て、そして少しだけ悲しみを湛えた表情で笑う。
私は――俺は黄色の鏡水晶を通してその表情を見る。
彼女が幸せに生きられますように――。
彼女の心臓を押す。
彼女がゆっくりと瞳を開く。
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