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鈍色のエンドライン
【お題:弱い芸術 必須要素:ジーンズ】
誰の目にも止まらないものをいつも作っている。
流通倉庫でのピッキング作業を終えて、作業着のままで捨てられたアトリエに行く。そこでカンバスに向かって、誰のためでもなく、誰の心にもとまらない絵を描いている。
才能がないことはいつも自分が一番わかっていて。
この土と埃だらけの街並みを、脚色することもなく描く。
このアトリエはもともと、ルビーさんが使っていたものだ。ルビーさんはTシャツにジーンズというラフな格好で、毎日空の絵を描いていた。澄んだ夏の青空や、燃えるような夕焼けの空や、満天の星空を、ルビーさんはできる限り現実に近い形で描く。
「いつか僕はこの街を出ていくから、僕がいなくなったらここは君が使ってくれて構わないよ」
そう言った数日後、ルビーさんはこの街からいなくなった。別れの挨拶があったわけではない。ただいつものようにこのアトリエを訪れたとき、直感のようなものがもうルビーさんが来ないことを告げた。その直感は正しくて、それ以来僕はルビーさんに会っていない。
ルビーさんもそうだったけど、僕にはやっぱり芸術の才能がない。
誰の目にも、誰の心にもとまらない、何のメッセージ性もない絵を僕は描き続けている。目的もなく、ただ日常を削り出すように。
弱い芸術だ。
僕らは強く生きていけないから、足りない何かを削り出すように、カンバスに筆を走らせる。
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