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アルパカのせいでフラれた男
【お題:シンプルな凡人 必須要素:アルパカ】
天才に勝てたことはない。
どれだけ努力しても、どれだけ運に味方されても、絶対に勝てない。勝てたことがない。見えない壁。絶対に超えることのできない壁。それを乗り越えることができなから、僕はいつも凡人だと言われる。
「つまりは、どんなことにも才能ってあるってことなんだよ」
枝豆を無意味に剥いて皿に並べながら、僕は緩やかに壊れていく思考回路に身を任せる。
「はあ」
結崎は本当に、心の底からどうでも良さそうな顔で相槌を打つ。たぶん、相槌を打ってくれるだけ彼女はまだ優しい。
「勉強だって、運動だって、芸術でもなんでも良いけどさ。とにかく才能ってあるわけじゃん。すると、やっぱり女の子に好かれるのも才能の多寡があるわけじゃん」
「そうかもね」
「するとやっぱり、僕にはそんな才能はないわけだよ。たまにいるじゃん。なんでこいつがモテるんだってやつ。ああいうの、たぶん才能だよね」
「そうかもね」
結崎はスマホをいじりながらビールをちびちびと飲んでいる。揺れる視界の中で、こいつはなんで毎度僕の愚痴に付き合ってくれるんだろうなんて考える。
「聞いてんの」
「聞いてる聞いてる。で、なんだっけ? 今回はアルパカのせいでフラれたんだっけ?」
「違う。あれ、そうだっけ?」
「最後のデートが動物園で、アルパカがあまりにのんびりした顔をしてたからフラれたんでしょ?」
「そんなこと僕言った?」
「言った」
言った記憶はないけど、たぶん結崎がそうだと言うのならそうなのだろう。僕はアルパカのせいで先日彼女に別れを告げられた。
「アルパカっていいよな。あんな間抜け面晒してるだけでかわいいかわいい言われるんだから」
「アルパカもあんたに対して同じこと思ってるよ」
「んー?」
彼女の言葉の意味が頭に入ってこない。なんで僕は、こんなしがない居酒屋で愚痴を吐き出しているんだっけ。
「ゆいざきー」
「ん?」
「いつもありがとうなぁ」
「ん」
ゆっくりとまどろみに身を任せていく。ああ、きっと僕はまた明日彼女に平謝りをしているんだろうな、なんて思いながら。
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