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心を拾いながら生きる
【お題:遅い愛人 必須要素:スラム街】
ハンブラルカ。あなたは心が遅いのよ。
魔女がそう言って笑ったとき、気づいたら私は彼女の言うとおりになっていた。右手の甲には星を半分に割ったような紋様が浮かんでいて、呪われたのだと実感する。
文句を言う暇もなく、魔女は目の前から姿を消していた。私は何をも思うことなく、ただ事実に直面していた。どうしよう、と考える暇もなく、刑吏に見つかってスラムへと追いやられた。
そして数日経ち、ようやく私は絶望する。心が追いついていなかった。手袋をして文様をして隠せば今までどおり生きていけるのでは、とスラム街で食料をあさりながらと思いつき、あまりに遅い心にようやく涙が出る。
呪いは呪われていない人に伝染るから、呪われた人はスラム街に捨てられる。呪いは治ることは決してない――。
それはこの街における暗黙の了解で、私には関係のないことだとずっと思っていた。
「ああ、エリアグラム……」
彼との思い出が次々と頭に浮かぶ。もう二度と彼には会えないと、ようやく思う。後悔も絶望もあまりに遅い。きっと魔女のせいだろう。感情に時間差があるとは、なんて辛いことなんだろう。
「おねえちゃん、大丈夫?」
いつの間にか少女がいる。顔の半分が火傷でただれていた。右手の甲には割れた星型の紋様がある。
私は少女に気づかない。少女は私の手を握っていて心配そうに見ている。視界に入っているけれど、今は絶望が心を焦がしている。世界は早い。心が追い付かない。
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